花は紫宮に咲く−3
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日、真新しい女性用の官服に身を包んだ春麗は、門の前に立った。
一見、男性の官服とあまり変わらないように見えるそれは、秀麗と春麗が考えたものだった。
女を主張しすぎないように、また機能的であるように。
しかし、男性の写しではなく、女性らしいしなやかさと優しさを加えた形に仕上げた。
押さえた紅色は紅家の証。もちろん、秀麗と同じだ。
こだわりは靴で、布製で刺繍を施し、軽さを出した。
冠はつけず、長い髪は半分だけ編み込んでから高い位置で結び、薄桜色の布で巻き、肩から前に垂らしている。
まだいつ狙われるか分からないので、戸部の佩玉は懐にしまった。
装飾品は唯一、紅玉の耳飾りのみ。
茶州組は明日出立のため、今日は休みのため、春麗と邵可が宮城に向かう。
「春麗、素敵よ!」
「綺麗ですー」
「春麗姫さん、もともとキレーだけどやっぱり見違えるようだな。ところで、その荷物、多いようだけど大丈夫か?」
「えぇ、戸部は泊まり込みも多いと聞くので、色々用意しておこうと思って。あとご挨拶用のお菓子ね」
明らかに多すぎるそれは明日の準備でもあったのだが、適当な言い訳をしておくのを、邵可が半分持って複雑な顔で見ていた。
「では、行って参ります」
朝の光に向かい、颯爽と歩き出す。
春麗の官吏としての第一歩だった。
「本日より戸部配属になりました紅春麗です。改めましてよろしくお願いいたします」
朝一番は戸部に着いて…昨日と同じ挨拶をする。
官服での挨拶は、やはり実感も違うし、緊張もする。
「おはよう、よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね。春麗ちゃん」
ずっと”天寿くん”と呼んでいた景侍郎に”春麗ちゃん”と呼ばれて少し恥ずかしくて赤くなった。
窓を開けて空気を入れ替え、簡単に掃除をする。
”戸部尚書補佐”とはいえ、一番下っぱの身であることに変わりはないので、侍童時代にしていた雑用もする。
定刻が近づくと、戸部官たちも徐々に出仕してきて挨拶をした。
「本日は初日ですので、これから各部に挨拶に行ってきます。主上のところに寄って午すぎには戻りますが、吏部に届けるものがあれば一緒に持っていきます」
昨日のうちに伝えてあったが、他の皆さんにも聞こえるように再度伝える。
「あぁ、これを頼む。午からしっかり働いてもらうから、そのつもりで。」
「はい、行って参ります」
まず初めに、吏部にきてみる。
相変わらず朝から怒声が飛び交っている”悪鬼巣窟”である。
(珀明さん、大丈夫かしら?。夜に会った時に様子を聞いてみよう)
と考えながら尚書室の扉を叩き声をかけて中に入る。
相変わらず、書類に埋もれた吏部尚書…
「本日より、吏部尚書補佐を務めます、紅春麗でございます。よろしくご指導のほど、お願い申し上げます」
型通り、挨拶をする。
「遅い」
(あー)
「来るのが遅い!戸部なんて最後でいいんだ!」
ご機嫌ななめ極まりないので、とりあえず近づいて
「お祝いの品、ありがとうございました。似合いますか?」
と横顔を見せてポーズを取る
「あぁ、とっても似合っているよ!」
デレっとなった黎深を見て、
(よし!ごきげんとり成功!)とほくそ笑む。
「叔父様、吏部尚書補佐、ってなんのお仕事をするんでしょう?週一回ですから、きちんとお伺いしておこうと思って」
「ない」
(やっぱり)
「そうですよね、叔父様はお仕事なされば誰より早いですものね」
「茶を淹れて一緒に飲んでくれればそれでいい」
(やっぱり…そうよね)
「でも叔父様。書簡に埋もれてお茶をするのは嫌ですわ」
「それなら、来る前に片付けておく」
「そうですわね…一度に全部片付けると、吏部のみなさんが大変ですから、わたくしが来る前に半分、お茶をして帰った後半分片付けてくださいます?」
「春麗が言うなら、そうしよう」
「お仕事の残り具合でお茶ができるかどうか決まりますから、そのつもりでいてくださいね、黎深叔父様」
「わかった」
それから黎深が半分片付けた仕事を部署別に仕分けて、外にいる吏部官吏に引き取ってもらいお茶をした。
扉の外で「紅尚書が仕事したぞー!!」という叫び声が聞こえ、より騒がしくなっていたのは言うまでもない。
移動する前に、珀明に声を掛ける。
今日は茶州組の送別会なので、帰りの待ち合わせを提案した。