花は紫宮に咲く−3
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ふぅ、と鳳珠が一つため息をつく。
「紅春麗の人事は各部の引っ張り合いになったからな、主だった部門の長が参加して、そこで合意となった。まぁ、主上は初め茶州に春麗を送ろうとしていたらしい。国試及第直後に、上位5人分の回答を見せてもらって春麗を選んだ、という形はとったが、初めから戸部に来てもらうつもりだったから、国試直後に根回しを始めていて正解だったな」
「えっ?」
春麗はどういうこと?という顔をしている
「ずっと文に書いていただろう、”戸部で待っている”と」
ぽっと春麗の顔が赤くなる。
クスッと笑った鳳珠が「おいで」と声を掛ける。
立ち上がってどうしよう?と思っていたら
「春麗」
と声をかけられて、少し近づく。
鳳珠が立ち上がって一歩近づく。
「待っていた」
「鳳珠さま…」
赤くなって俯いていたら、ぱっと手を取られ引っ張られ、腕の中に抱きしめられた。
「やっと、お約束通り、おそばで使ってもらえます…」
「あぁ」
暖かい腕の中が懐かしい感じがして、春麗は鼻の奥がツンとした。
程なく腕を解き、ポンポンと春麗の頭を叩いてから、「もう一つ話がある」と鳳珠が告げる。
真剣な様子に、仕事のことかよくない話か…と春麗は心が落ちつかない。
「これから、4つの部門の掛け持ちとなって、かなり忙しくなると思うが…私の邸に来ないか?うちなら、侍女が喜んで世話をすると思うし、うちの方が宮城にも近い。いつかのように倒れられたら心配だし、仕事にも穴が開くので、健康管理も含めていいかと思ったのだが、どうだろうか?」
「えぇっ?」
思いもかけないことでびっくりする。
「鳳珠様のお邸で、住み込み…?」
「あぁ、どうだろう?」
秀麗と静蘭がいなくなることで父様一人になるあの邸、生活能力ゼロの父様が心配でないといえば嘘になる。
けれど、父様と毎日二人きりでうまくやっていけるのかという心配も一方である…悲しいことに、お互いに心を開いていない。
距離を近づける良い機会であるけれど、黎深のように仲介する人がいない中で、仕事も新しい環境で自分が持つかという不安の方が大きい。
それに、鳳珠様のお邸は居心地がよかった…し、鳳珠様のお側で何か役に立てるのなら…
「でも、ご迷惑ではありませんか?お邸の方も、急に見ず知らずの娘が転がり込んでは…」
「見ず知らず、って…まぁ確かに、紅家の姫が来たら驚くだろうが、そういう心配はしなくていい。男主人の邸だから、きっと侍女たちは年頃の姫を世話できるとあって、喜ぶ」
なんということもない、というように鳳珠が答えた。
「でも、わたくし、ご厄介になっても何もお礼ができません」
「そんなのは必要ない、気にするな…と言ったところで、気にするんだろうな」
「…」
「話し相手になってくれたり、そうだな…采が得意と聞いているから、時折で構わないので作ってくれたらそれで十分だ」
「そんな簡単なこと!お礼にもなりません」
「それで良いと言っている、どうだ?」
まだモゴモゴ言っていたが、そっと頭を撫でて、どうだ?と促すと、
「それでは、お言葉に甘えて、お世話になります…父に、話してみます」
と承諾した。
鳳珠は満足気に頷き「あぁ」と言った。
「必要そうなものは用意しておく。いつから来られそうか?」
「明後日の茶州組の出立の日までは家にいようと思います。明日、壮行会をやることになると思いますので、今日明日で荷物は簡単にまとめておきます。と言っても、そんなにないですし、時々は様子を見に帰らないと…父は生活能力が低いので、家が崩壊する可能性があるんです」
「邵可殿が?意外だな」
びっくりした顔で笑う。
「お茶もロクに淹れられません…」
「あ、ああ、あれ…」
「鳳珠様、”父茶”をご存知ですか?あぁ、申し訳ございません」
アワアワとし始める春麗を見て笑う。
「では、明後日、仕事の後に一緒に帰るか?」
「…はい、よろしくお願いいたします」
思いがけないことになった、と思いつつ、不安と楽しみ半分の微笑みを浮かべて、春麗は頭を下げた。