花は紫宮に咲く−3
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
高官たちの了承、については少し遡る。
今回の任官は、本来は茶州州牧人事が目玉だった。
劉輝ははじめ春麗を行かせるつもりでいた。
一方、合格発表の段階で上位5人の試験解答を一応確認した黄尚書は当初の計画通り、紅春麗はぜひ戸部に欲しいと動きだし、魯官吏や黎深、絳攸や三師などに根回しを行っていた。
本人の希望も課題も戸部案件だったが、それでも劉輝は茶州人事の候補にしたいと、黄尚書に確認したら案の定大反対され、身内の吏部尚書と後見人の宋太傅も反対、さらに尚書に繰り上がっていた魯官吏からも
「本当は礼部に欲しかったが、戸部の惨状と黄尚書の思い入れを考えて諦めました。もし今までの進士たちのように戸部で持たなかったら礼部に移ってもらいたいと考えます。」
とまで言われ、無理矢理茶州に出すことはできなくなってしまった。
同時に宋太傅から「兵部とは言わないからぜひ羽林軍指南にも」と話があった。
もちろん宋は後見人になった時点で計画しており、腕を見込んでとのことと、自ら仕込んだ兵学の知識が豊富なことを知っていたからである。
この宋太傅と魯尚書が動き出したことで興味を持った劉輝は、絳攸に春麗について尋ねる。
今回の一連の活躍も見て自分の補佐を頼みたいと言い始めた。
この2つについて、黄尚書、紅尚書に確認したところさらに猛烈な反対があり、茶州州牧人事とともに前代未聞の調整のための打ち合わせのために主だった長が集まることとなった。
初めに口火を切ったのは、礼部の一件で繰り上がった魯尚書だった。
「紅春麗はまだ進士だが、本来なら礼部侍郎くらいになってもらいたいの力を持っている…礼部に関わる課題を2つも出してくれたんだが、本人と黄尚書の強い希望がある以上、戸部に出さざるをえませんね」
「ほぅ、礼部に関わる課題とな?」
霄太師が面白そうに口を挟む
「進士教育の過程に関する課題と考察、だったかな。なかなか興味深いものだった。余はそれで余の補佐がいいかと思ったのだが…そもそも、魯尚書が言う新進士に侍郎職とはどういうことか?」
と劉輝が聞いた。
「はっきり言って、紅春麗を使いこなせる中級官吏はほとんどいないでしょう。彼女の方が仕事ができます。主上肝いりの女人官吏、使いこなせない上司の下で嫌気がさして十年前の鄭悠舜のようになるならば、侍郎職に据えたほうがよほど良いと思ったまでです。彼女にはその力があります。ただその前に、最初は戸部、次は宋太傅と話があったので…礼部としては今年は諦めますが、来年は是非回してもらいたい」
残念そうに肩を落とす。
”十年前の鄭悠舜”の言葉に、吏部尚書と戸部尚書が反応した。
「確かに…な」
呟いてから頷き合ったのを側近二人は不思議そうに見ていたが、劉輝は気づかずに話をまとめようとした。
「そうすると、主軸は戸部で、羽林軍指南と余の補佐、合わせて三つをやってもらうことになるのだな」
口を開いたのは黎深だ。怒りながら猛然と反対をする。
「主上、あなたはなぜここまで春麗に負担をかけるのか?殺したいのか!!」
霄太師が口を挟む。
「まぁ落ち着いて紅尚書。魯尚書が言った通り、今の朝廷で春麗を越えるのは四省六部の長と次席くらいじゃろうて。彼女はそれほどの才の持ち主じゃぞ」
宋太傅も続けた。
「紅尚書は知ってあろう、春麗はワシに勝てる相手だということを。ちなみに国試の兵学は全問正解だ。」
黎深ははっきり言った。
「王の補佐は反対です。あなたや今の補佐二人に、紅春麗は使いこなせない」
絳攸は唇を噛み締めた。
黎深の言っていることが正しいとわかっていたからだ。
そんな様子を、楸瑛がそっと横目で見る。
「それでもどうしてもというのなら…まだ他に条件がある」黎深は続ける。
「申してみよ」
「一つは、春麗には王の花を渡さないこと」
「・・・」
「補佐に、という時点で考えておられるでしょう。3つも掛け持ちをして、更に王の花を渡してしまったら、貴方を優先せざるを得ない。主軸の戸部はおろかどこの業務もできなくなる。もう一度言います。あなたは春麗を潰す気ですか?」
「それはもっともじゃ」と霄太師は相槌をうつ。
「あともう一つ…兼務で、吏部尚書補佐に。この際、3つも4つも一緒です。吏部は侍郎が王に取られているので、業務が停滞しがちなものですからね」
(それは貴方が仕事しないからでは!?)
全員が思ったが、この場で口に出す強者はいなかった。
次に、黄尚書が口を開く。
「主上、あくまでも紅春麗は戸部官、でよろしいですよね?」
「あぁ」
「正直申し上げて、掛け持ちできるほど戸部は甘くない。私は基本的にはどの掛け持ちも反対です」
「それは上司である黄尚書が調整してやれば良いのではないか?」
劉輝は言葉の真意を理解せず伝える。
「では…どうしても掛け持ちをさせる、ということであれば、部下のために私からも条件を。一つめ、羽林軍指南については、鍛錬や勝負はさせないこと、基本的には講義のみで月に2回半日ずつ。大きな怪我でもされて戸部に穴が空いては困ります。仮に鍛錬や勝負で怪我をした場合は、即、辞めさせてもらいたい。また本人がやりたくないと言った場合も、羽林軍指南はすぐに辞めさせられること」
「いいだろう、あくまで指南役として欲しいのは頭脳じゃ」
宋太傅が即決した。
黄尚書は想定内だったのか頷いてから、一拍おいて続けた。
「二つ目は、王の補佐官は…私も反対です。先程、紅尚書が言ったのと同じ理由です。どうしてもというのであれば、本人が承諾した場合のみ週に2回、午休みに執務を。そして、こちらもいつでも王の補佐官を辞められること。これも本人に判断できる権利を持たせてください」
劉輝の顔が引き攣る。
(紅尚書は想像できたが、黄尚書まで反対するとは…)
だが、反対されている本当の意味はまだ理解できていなかった。
「三つ目は…これは想定外でいま追加しましたが、王が紅吏部尚書の条件を受けられて、吏部尚書補佐の肩書きが増えるのであれば、吏部の仕事は最大で週一回午前中のみ、戸部が臨戦態勢のときは戸部優先、です」
黎深が小さく舌打ちする。
「ご存知の通り、戸部は少数精鋭です。一人欠けると非常に苦しい。うちでやっていけそうな優秀な人材をもっと回して欲しいというのもありますが…そうでないなら彼女の能力を最大限引き出して、頼らざるを得ません。全体的に戸部官は年齢が高いので、次世代育成もしていかねばなりません。期待の新人をそうそうあちこちの部に取られていてはいないも同然になります」
劉輝は少し考えて口を開いた。
「黄尚書の言うのはもっともなのだ。…条件を全て飲もう。任官は戸部尚書補佐に。皆、それでいかがだろうか?」
了承され、前代未聞の4部門掛け持ちが決まった。
次いで、茶州州牧人事は、地方出身の影月と、探花の秀麗を2人で行かせることにした。
同じ状元であれば影月一人でも良かったのだが、あまりに年齢が若すぎるため、不安があるとの意見が多く、2人一組とした。