はじまりの風−1
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程なくして、春麗、もとい天寿は戸部にいた。
その昔、数回会った優しい鳳珠が、いつかこっそり見た時と同じように変な仮面をつけていて面食らう。
「天寿くんと言います。この子に少し手伝ってもらおうと思って」
「そうか、よろしく頼む」
あの綺麗な声も仮面でくぐもってよく聞こえない。
思わずぼやっとしてしまっていたが、ハッとして「よろしくお願いします!」と頭を下げた。
(まさかの戸部なんて〜しかも大昔とはいえ会ったことある人が尚書で、数年前とはいえあの時のおじさんが景侍郎だなんて…おそらく覚えてないだろうけれど、まだ吏部の方が叔父様だったからなんとかなったのに、これじゃ絶対にバレるわけにいかない!)
と焦りはあったものの、逃げ出すわけにもいかず、景侍郎の雑用係としての仕事が始まった。
(そういえば、どこの所属か聞かれなかったけれど、いいのかしら?)
単に、尚書も侍郎もそこに興味がなく、猫の手も借りたい状態だっただけ、というのはだいぶ後に知ることになる。
(ひ、人遣い荒い・・・)
春麗はなんとなくこなしていたが、一度に頼まれる用の多さに辟易していた。
頼む相手は、黄戸部尚書、春麗の中では子供の時に優しく頭を撫でてくれた綺麗な顔の人である。
ヘンテコ仮面かぶってるし、人遣い荒いしきびしいし、何があったのよ〜〜と泣きたくなる。
それだけに限らず、指令された仕事といえば
「吏部に行って”貴様らが勝手に壊した備品に払う金はない阿呆が”といってこの書簡を突き返し、工部に行って”飲んだくれている暇があればきちんと計算しろ酔いどれ尚書”と一言一句違わずに伝えて突き返せ。それから府庫に行ってこの本3冊を返して5冊借りてこい、終わったら戸部内の片付けをしろ」
なんて、”ちょっと手伝って”の範疇超えてるし!!!
景侍郎が「尚書は口が悪くてきびしいんですけれど、悪気はないのでお願いしますね」なんて優しくいってくれたからまだ頑張ろう、って思えるけど、これがなければ確実に霄大師のところに怒鳴り込んでるわ…
と心の中でぼやきながら吏部を目指す。
吏部に行けば確実に黎深叔父様に会う。
賃仕事の件は影が掴んで報告しているだろうけれど、行ったら確実に捕まる…
と思い、先に工部に届けることにする。
(”酔いどれ尚書”ってなにかしら?)
と思ったのはほんの少しで、近づくにつれ濃くなるお酒の匂いに、宮城でこんなに酒臭いとは?となったが意を決して中に入る。
(こ、これは・・・)
尚書室は酒瓶の山だった。
「失礼いたします、戸部より遣いで参りました」
やったら派手でジャラジャラ着飾ったチャラい男が出てくる
「この前の書簡の返信か?」
「工部尚書に、吏部尚書より伝言があります」
「なんだ、奇人のところの新顔かぁ??」
(奇人?)
と思ったが、そこは気にせず伝言を伝える。
「飲んだくれている暇があればきちんと計算しろ酔いどれ尚書!と申しておりました。こちらはお返しいたします。では失礼いたします」
絡まれる前に全速力で逃げ出す。
あまりの退散の速さに、周りはポカンとしていた。