花は紫宮に咲く−2
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程なくして落ち着いた頃、仮眠室の扉が叩かれる。
開けると柚梨が折り詰めらしき荷物を持って立っていた。
「紅尚書にとお届けものでした」
「わかった。春麗、立てるか?」
「はい」
トコトコと歩いてくる。
「隣の部屋に黎深と邵可殿がいるから、行こう。柚梨、ありがとう」
と言って荷を受け取り、尚書室に移動する。
「黎深、これが届いたが?」
「春麗、大丈夫かい?お腹も空いているだろう、みんなで食べよう。兄上もどうぞ。」
いそいそと黎深が広げ始めるので、鳳珠は茶を淹れ直す。
「鳳珠、景侍郎の分もあるが?」
「なら私は向こうで柚梨と食べよう」
「景侍郎をこっちに呼べばいいだろう?」
聞きに行ったらもう帰るところだということだったので、黎深は折り詰めを無理やり一つ景侍郎に押し付けて持って帰らせた。
結局、4人で食べることとなった。
春麗の折り詰めは小さく、中身も違った。
なんとなく、茹でた野菜など、柔らかめに作られているようである。
(邵可殿が春麗を避けるのと、黎深がここまで尽くすのの差はいったいなんなのだろう?)
鳳珠は考えながら、じっと春麗の折詰を見つめる。
(気が付いたか)
黎深は鳳珠の視線から判断する。
チラリと隣の邵可を見るが多分気が付いていない。
(兄上はただでさえ生活能力が低いからな…)と諦めた。
「そういえば…」
春麗が口を開いた。
「”悪夢の国試組”の皆様のときも、わたくしたちみたいに吏部試がなくて朝廷留置と聞きました。鳳珠様は庖厨所でお皿洗い…わたくしと同じだったようですけれど、黎深叔父様はなんだったんですか?」
黎深は苦々しげに「厩番だ」と答えた。
「春麗、なんで私が皿洗いと知っていたのだ?」
「庖厨所の皿洗いに来たのは悪夢の国試組以来だ、って皆さんが言ってたんです。”すごい美人の皿洗いで倒れる人が続出して大変だった”って聞いたのと、世話人のおばさまが黄尚書だよ、って言ってたので」
ゆっくり箸を運びながら答える。
眉間に皺を寄せた鳳珠には気づかず、
「あ!そうだ、叔父様?」
箸を置いて懐をガサガサして、花簪を出す。
「これ、だいぶお花がなくなってしまったので、補充お願いします。紅玉はもったいないので、一番上以外はつけないでください」
「もうほとんどついていないじゃないか!なぜもっと早く言わない!」
黎深は怒って春麗の簪を取り上げる
「ごめんなさい…」
しょんぼりして、また箸を取ったが、叱られたことで嫌になったのか
「もうお腹いっぱいです」とプイッとした顔で置いてしまった。
まだまだたくさん残っている。
邵可が「もう少し頑張ろうか?」と声をかけるが、首を横にふる。
「春麗、半分は食べなさい」
黎深が促した。オロオロした春麗が鳳珠を見たので、鳳珠も頷いた。
仕方なく、もう一度箸をとって半分まで食べ、「もう無理です」とつぶやいた。
「今日はだいぶ遅くなってしまったね。帰りは歩けるかい?」
と邵可が言う。
「兄上、送りましょう」
ウキウキと黎深が言ったが、
「府庫に秀麗と影月くんを待たせているから、黎深の俥には乗れないよ」
とニコニコしながら突っぱねた。
黎深はこの世の終わりみたいな顔をしている。
春麗がそれを見てクスクス笑っていた。
「では、私が送りましょう」
「そこまでしていただくのは…」
「戸部で倒れたのだから、説明はおかしくはないでしょう」
折詰を片付けて、帰り支度をする。
黎深が声をかけた。
「春麗、府庫に絳攸を残してある。吏部に戻るように言ってくれ」
「迷子にならないかしら?」
「そうだな…俥寄せで待ち合わせるか。鳳珠の俥が出たら行くからそこで待っていろと伝えろ」
「わかりましたわ」
戸部の戸締りをして府庫に向かい、待っていた三人を連れて俥寄せに移動する。
「絳攸兄様」
秀麗たちと少し離れて、春麗は黎深の伝言を伝える。
「動かずにここで待っているように、とのことですわ」
「わかった」