花は紫宮に咲く−2
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朝議が終わるまで開くはずのない扉が開き、別の声がした。
そこに立っていたのは、吏部尚書紅黎深と、魯官吏だった。
入ってきてすぐに春麗に目を止める。
「おや春麗、そんな隅っこにいてどうしたのだ?私の席にでもいればよかったのに」
「お戻りの時に、お席がないと困ると思ったからですわ」
「そうかい?優しい子だね」
普段の冷たい表情とは全く異なる優しい顔に、周囲が変なものでも見たような顔になった。
「それにしても」
ほうけている蔡尚書を見て、元の顔に戻る
「全くここまでバカだとは思わなかった。鳳珠が仮面を許されているのは、誰一人その代わりができないことを知っているからだ。第一、鳳珠に素顔のままそこらを歩かれてみろ。政は即日全停止だ。誰も仕事が手につかなくなるぞ。古参官吏は十年かかってようやく鳳珠の顔を思い出さないで仕事ができるようになったというのに」
チラリと仮面姿を見てから、パン!と蔡尚書の顔の前で手を叩いた
「い、今なにかが…何か…」
「なんですか、蔡尚書?」
目の前に忽然と現れた(ように見える)黎深を見て、青くなる。
「こ、紅尚書…」
「さて、あなたは非常に面白いことをしてくださった」
「いや、私がしたのではなくて…」
「百万が一そうでも、あなたがしたことだと思っているので、事実は関係ありません」
(叔父様、それ無茶苦茶な…)
黎深は蔡尚書にだけ聞こえる声で囁いた
「あなたはまた性懲りも無く私の大切な者の誇りを汚そうとした。私は二度同じ人物を許すほど寛容ではありません」
「ひー」
優雅な仕草で書状の束を取り出し放り投げる
「この書状はご家族ご親族及び親しい友人からの縁切り状です。事情を話したらどなたも快く書いてくださいました。あなたの家産一切合切、全て紅家が差し押さえました。また今後、紅家ゆかりの場所には近寄らない方が無難でしょう。見つかったら最後、近くの川に重しつけてドボンです」
(この世に紅家の息のかからない場所なんてないわね)
「うちの一族は私同様、怒ると手がつけられない上、非常〜に執念深いので、百年たってもあなたの名と顔は忘れませんよ」
ぱらっと扇を開き、耳元で小声で話す
「数年前、私の養い子を捨て子と馬鹿にしたくせに、官位が上がった途端今度は散々まつわりついて婿にと縁談をしつこく迫るとは、全くあなたの面の皮の厚さを測ってみたいものです。挙句、あれに私が一番見たくない顔をさせるとは。何を言ったか知りませんが、あの時から私はあなたを許すつもりはさらさらなかった。そして次は可愛い二人の姪の命までも取ろうとした…もはや許す余地は全く残っていません」
姿勢を起こし、扇をぱらりと返す。
「ああ、そうそう」
さっと蔡尚書の鬘をひっぺはがした。
ころん、と中から落ちたものがあった
「一応、これもいただいておきましょう」
それは、この一連の騒動と並行して探されていた、茶家の指輪の”偽物”だった
「これを持って茶一族に助けを請おうとしても無駄ですよ、全て手は回してあります。偽物ということも知らせてあります」
「そんな!」
「この私が退路を一つでも残すとお思いですか?」
氷の長官の異名よろしく、冷たく最後通牒を放り投げた