花は紫宮に咲く−2
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黄尚書にいたっては、仮面越しに聞こえるため息をついた。
「巷のへぼ小説並みの展開ですね。いいでしょう、別に私は何一つやましいことはありません。そこまで仰るならとりましょう」
迷いなくさっさと仮面の紐を外そうと手をかける。
「ほ、鳳珠…」
景侍郎が青い顔をしてはしっと手を伸ばし、仮面の紐をしっかり押さえて落ちないようにする。
古参の官吏がぎゃー!と叫び、どっと黄尚書に縋り付く。
「や、やめてください!お願いです、私はもう妻と子を裏切るわけには!」
「私の平穏な人生を掻き乱すのはもうよしてください!」
「この歳でここまで官位が上がったのに、うっかり坊主になりたくないです!」
「わ、わしは夏に生まれる初孫を見るまでぽっくり逝くわけには行かんのじゃ!」
(いや、わかりますわよ?わかるけど、ここまで…)
幼い時に顔を見て、免疫ができてしまったのか、倒れることはなかった春麗は少し驚く。
ふと周りを見ると、黄尚書に取り縋っている古参官吏たちを、もはや何事という顔でポカンと見ている人たちが目に入った。
笑いそうになり、扇で隠す。
「…な、なんだ?そんなにとんでもない顔なのか?」
傍観を決め込んでいた劉輝は、両側の側近たちに聞いた。
「黎深様は”飛んでいる鴉も気絶してバラバラ落ちてくるような顔”としか…」
「私も残念ながら知りません。でも別に黄尚書ほどの方なら、素顔がどうでも負要素にはならないと思うけどねぇ。私がいうのもまるで説得力がないが、男は顔じゃない」
横でそれを聞いた霄太師が大爆笑した。
宋太傅も笑いを堪えすぎて顔が真っ赤だ。
「ぷ…く…それほどまでいうのなら、面を外してみてはどうじゃ?ただし全員後ろを向いて、蔡尚書だけに見せて差し上げると良いじゃろう」
霄太師の案に、蔡尚書はムッとした。
「ですが私は黄尚書の顔を知りません」
「知らなくても本人とわかる。だからこそ仮面を許されておるのじゃ」
「はーい!余も見ていいか?」
「却下じゃ。また後宮に引きこもられたら敵わんからの」
黄尚書の空気が一気に氷点下に下がる。
霄太師は構わず続けた。
「戸部尚書の顔を知らぬものも、好奇心に負けて振り向かぬが良いぞ、よくて向こう三年はまともに仕事が手につかずに、官位は下降の一途、家庭も持てん。悪ければ正気を失う」
全員、後ろを向く。見張り役は景侍郎。
春麗は後は向かずにそのまま様子を見る。
同じく様子を見ていた霄大師と宋太傅と視線があったので、にっこり微笑んでおいた。
優雅な手つきで仮面を外したところで、霄大師が劉輝の耳を塞ぐ。
「ーさて」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ
あちこちから悲鳴が上がる
「しまったー!声を忘れてたー!!」
「耳栓だ耳栓!」
「待ってください、黄尚書」
「うわ〜趙官吏が失神したーっ」
「若い奴らも我が身が可愛ければ耳栓しろー!!」
一声で阿鼻叫喚の地獄絵図
「お、抑えてください、鳳珠…」
景侍郎がそっと声をかけるが、本人は怒りで震えている。
黄尚書がふと顔を上げると、心配そうに見つめる春麗と目があった。
すっと怒りがおさまってくる。
(不思議なものだな…)
黄尚書は目の前の様子を少し頭の片隅に追いやって、落ち着いてきた気持ちの方にー紅に意識を向けた。
その間に、景侍郎が蔡尚書を見ると、案の定、自分の名前も綺麗さっぱり忘れたような顔をしていた。
周りが静かになってきたので、再度黄尚書は口を開いた。
「…さて、お気に召しましたか?蔡尚書」
その姿が天女天人の如く、その声は迦陵頻伽の調べの如し
蔡尚書はこくんと頷く。
黄尚書は紙と筆を用意し
「あなたが紅秀麗進士と紅尚書をはめた張本人ですね」
コクッ
「あなたは公金を横領し、昇進のために裏金をばら撒いて挙句自分の罪を魯官吏になすりつけようとしましたね・・・・・・」
コクコクこくり
「これで証言が取れた。柚梨、霄大師、宋太傅、そして紅春麗、あなた方が証人です」
仮面を装着する。
「鳳珠、これって詐欺では」
「全部事実だ。泥団子事件のバカどもからも証言を取った。何が詐欺だ」
「そうなんですけど…」
遮るように声がかかる。
「いいや、最初からこうすればよかったと思うよ、景侍郎」