花は紫宮に咲く−2
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劉輝は続けて蔡尚書に話しかける。
「そういえば、そなたは当初から、女性官吏登用には猛反対していたな」
「ほとんどの者が反対するしていたではありませんか!大体、それを言うならあやしいのはむしろー魯官吏ではありませんか!」
この場に魯官吏はいない。
(責任転嫁の欠席裁判、ですか…なんでこんなのが尚書なのかしら?)
春麗は呆れて小さく息を吐いた。
「きっと紅尚書に何か恨みがあってのことでしょう」
「魯官吏は別に女人官吏に反対していなかったぞ?それに彼は珍しくも”紅尚書のお気に入り”だ」
「ーーーーは?」
「それにそなたは新進士の一部が不当に酷使されていたのを知っていたのに配下を止めなかったのか。彩七家出身の碧進士はいち早くかばったと聞いているが?」
「そ、それはいつものことだと聞いております」
「そうだな、いつものことだ。魯官吏が将来有望な者に特に目をかけるのはーこの場をみわたしてみるがいい。彼に扱き抜かれた者たちは、今どの席に座っている?」
景侍郎はハッと黄尚書を見た。
鳳珠の仮面の下の視線が動いたのに気がつき、その方向を見ると春麗も鳳珠を見ていた。
紅黎深は吏部尚書に、黄鳳珠は戸部尚書に、李絳攸と藍楸瑛は若くして王の側近。
隣の尚書が仮面の下で笑っているのを景侍郎は感じた。
そして思ったー彼女と、彼女たちはどうなるんだろう?
その頃、紅黎深は離宮の一角で優雅に茶を飲んでいた。
「紅尚書、いつまでここにー」
「気の済むまでです。魯官吏も、お茶をどうぞ」
「茶なんぞより早く朝議に行ってください。私と一緒ならば行くとおっしゃったと使いから聞いたのでここにきたのです。今頃、城下城内がどうなっているかー」
「どうなろうが知ったことではありませんね。座ってください。頑固で真面目なあなたとこんな風に過ごせる時はそうないのですから。昔話もしたいものです。まああなたが私に厩番を命じたときは、もう頭にきて頭にきて、何度抹殺しようかと思いましたが」
魯官吏は少し固まった後、無言で座ってから口を開いた。
「…私も何度殺気を感じたことか」
「しなくてよかった。あなたの真意は後でわかる。官吏になったその時に」
若くて優秀な者ほど、朝廷に飲み込まれやすい。
「一見屈辱的な仕事場も、官吏や朝廷の真実を見聞きするのに最適だ。朝廷ほど嘘っぱちだらけで足の引っ張り合いの醜い職場もないですからね。私も厩番をしたおかげで官吏たちの弱みを盛りだくさんに握れて今現在大変助かってます」
「普通の新進士はそこまでしません」
「杜影月はあまりに若く、なんの後ろ盾もない状元。春麗、秀麗は若い上に女。どちらも最初から舐められ、潰しにかかられるのは目に見えていた…」
黎深は優雅にお茶を飲んでから続けた。
「が、あなたはなぜ、春麗と秀麗に差をつけたのです?」
黎深が鋭い視線で魯官吏を見る。
魯官吏が差をつけた理由が、わからない黎深ではない。
「紅春麗は…別格です。彼女は頭抜けて優秀だし、物事の善悪を俯瞰してみられる。中級官吏ともうまくやっていけるでしょう。紅秀麗は、それが良さでもあるのだが真っ直ぐで努力一筋、猪突猛進で視野が狭い。それは高官に好かれる理由にもなるが、同僚に嫌われる理由にもなる。私が差をつけた理由はそこです。」
魯官吏の回答に、黎深は満足気に微笑んだ。
その様子を見て、魯官吏は続けた。
「今年は未来に期待ができそうな年です。特に年若い進士たちは足を引っ張り合うどころか、助け合う心を知っています」
「あなたのような方がいらっしゃるからこそ、何より幸せなことです。毎日こっそり置いてある菓子やら肉まんやらお茶やらの運び手があなたと知った時は仰天しました。あなたはいつだって何も言わない。私から見れば貧乏くじばかりの人生です」
「ほっといてください」
「主上も、長年のあなたの恩に報いるつもりでいます」
魯官吏はギョッと顔色を変えた。
「私と一緒に、これから朝議に出てくださるのでしょう?」
「わ、私は今の地位で十分満足…」
「あなたが行かなければ、私も行きません。それで城下が”全機能停止”になったら、あなたの良心がうずくのではありませんか?」
「脅迫するおつもりですか」
「脅迫?人事の長として良き人材配置のため、当然の措置をとるだけです。あなたがあの名家至上主義つるっぱげデブかつ腹黒にも満たない腹灰色尚書の下で顎でこき使われているのをみるたび、常々むかっ腹が立っていましてね。そもそも能吏が不足しているのに、余計なところに割く余裕なんてないんですよ」
「・・・・・し、新進士教育は別に余計なことでは」
「そんなにお嫌ですか?確かに主上にあなたは勿体ない。あ、そうだ、我が家へ来て家令になりませんか?」
「一緒に参ります・・・」
「では、お約束通り、そろそろ参りましょうか」
黎深は残念そうな顔をしてから、優雅に立ち上がった。