花は紫宮に咲く−2
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朝議の場に黄尚書、景侍郎に続いて入ってきた進士−しかもこの後の査問会にかけられる予定の女人に目を向け、周囲はざわついた。
当の春麗は悪びれもせずすっと背筋を伸ばし、扉に近い角の方に立つ。
「この女はなんなんだ!」
誰かが叫んだのに劉輝は目をやり
「そんな隅にいないで、紅尚書の席に着くがよい」
と言う。
「お心遣いありがとうございます、主上。ですが紅尚書が無事に”お戻り”なされた時にお困りになるでしょうから、わたくしはこちらで結構でございます」
「そうか、わかった。ではそこにいるが良い」
主上がいることを認めたため言い返せなくなり、騒いでいた者たちは黙ったが、すぐにいきなり停止した城下、城内の機能回復の課題が重大かつ深刻であり、その話題に移った。
「前代未聞ですぞ」
「いくら紅一族と言っても、やっていいことと悪いことがある」
「いや、そもそもの原因はなんなのかー主上!」
大騒ぎの中で向けられた視線に、劉輝は冷静に答える
「少し考えれば原因などすぐわかるのではないか?皆も聞き知っておろうが、紅吏部尚書がこのたび証拠もないのにいいがかりをつけられて拘束された。余もあずかり知らぬところで、十六衛下部兵士を誰かが動かしてな」
”余も預かり知らぬところで”という言葉に、周囲の喧騒が一気に止んで沈黙が落ちた。
「即刻取りなしたが、何を言っても紅尚書自身が出てこぬ。この騒ぎはそのせいだ。無理もないとは思わぬか?藍家と並ぶ名門中の名門、紅家当主を不当に拘束などすれば、紅尚書はもちろんのこと、誇り高い紅一族が怒るのも道理」
・・・
・・・
「紅尚書が…紅家当主…?」
「そんな…まさか…」
音のない世界の後、ざわめきが広がる。
どうやら、知らない者が大半だったらしい。
(あの春麗の一言は意外な事実だったわけか)
劉輝は小さく息をついてから、再び口を開いた。
「…ふむ、意外にも高官の中でも知らぬものの方が多かったのだな。紅春麗進士、紅家当主は紅尚書で間違いないな?」
(わざと一人ずつ聞いているんでしょうけれど、なんでわたくしからなのよ!)
春麗は若干の青筋を立てながら、それでも口を開く。
「はい…」
「李侍郎は当然として、他に知っている者もあろう。どうか。黄戸部尚書」
仮面の尚書は黙って頷く。
「藍家直系の藍将軍はどうだ?」
「ええ、黎深殿に代替わりした際の話は、兄たちから聞いております」
「どうだ、霄太師?」
「そうですな、かれこれ十四、五年前でしたかな、彼が後目を継いだのは」
劉輝は視線を滑らせて、大汗をかいて縮こまる人物に声をかけた。
「ー礼部の蔡尚書は、どうだ?」
ビクッと反応したが、何も言わない。
「ん?随分と震えているようだが?気分が悪いのか?尚書のそなたも知らなかったようだな?」
「は…はあ、とんと存じませんで」
(あぁ、やはり一時も早く都を脱出しておけばよかったのだ!なぜか朝までに人相の悪い男たちに邸を取り囲まれ朝議に来るしかなかった…まさかあれも紅家の差金なのか?)
「そうだろう…でなければこんな愚かな真似はできまい」
劉輝は軽くカマをかけた。
「と、突然何をおっしゃいます。わ、私は何も…」
「別にそなたのこととは言ってないが 何か身に覚えでもあるのか?」
「あ…いや、そんなことは決して!」
春麗がチラリと目線を動かすと、苦虫を噛み潰した絳攸と呆れ返った楸瑛が目に入った。
(この状況で涼しい顔していろ、って言う方が無理よね…主上はなかなか役者ね)
そのまま劉輝を見ると、何やら楽しそうに、だがすっとぼけた顔をして蔡尚書を見ていた。