花は紫宮に咲く−1
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「絳攸、秀麗のいない一日で、ずいぶん場内の空気が変わっただろう?」
「ええ。くるまでに妙な噂をそこここで聞きました。誰かが触れ回っているようですね」
複数の足音が近づいてきた。
「招かれざる客が来たようだ。あとはお前がなんとかしておけ」
武官が数人押し入ってきたが、監察の御史台所属の武官でもなく、ただの下級武官だと素早く見てとる。
「下郎ども、用件は?」
「…こ、国試の不正介入の疑惑で、紅尚書、貴殿の身柄を一時的に拘束させていただく」
「…ハゲが。わかってはいたが、よくまぁこんな手できたものだ」
黎深は氷の微笑を浮かべた。
「ああ拘束か?構わん、連れて行くがいい。…その結果、貴様らの身に今後何が起ころうとも知らんからな」
黎深の冷たい表情に戦慄しながらも、武官たちは吏部尚書・紅黎深を拘束した。
「主上、静蘭から紫紋の直文が届きました」
楸瑛が文を渡す。
「静蘭?あの印章は影月に渡したはずだが…?っつ、秀麗と影月が姮娥楼に監禁された!」
「…先ほど、紅黎深殿も捕縛されたとのことです」
「は?なんでそうなる!?」
流石の劉輝もガタッと音を立てて立ち上がった。
「今日一日で随分と秀麗殿が国試を不正に及第したのではないかと噂が広まったでしょう?国試を司る礼部が噂の発信源のようですから、妙な信憑性があったんでしょう。彼女を認めてくれる官吏も出始めていますが、まだ少数派です、きっと”あの男”も今のうちにと思ったんでしょうね」
「そういうことか…だがなぜ秀麗だけで、春麗は対象になっていない?多少しごかれたりいじめられたりはあるみたいだが、秀麗ほどあからさまではない」
楸瑛は少し考えて答える
「それは、彼女が状元だからでしょうね。一番上の者に手を出すより、それより弱いものの方がやりやすいものです」
一拍置いて
「それから春麗殿の後見は、関係性のよくわからない宋太傅です。どういうツテで頼んだかは知りませんが、そこまで考えていたとしたら、春麗殿はなかなか大したものです。実際、秀麗殿の後見である紅尚書は身内、ということもあって拘束されましたからね」
「絳攸も誉めていたが、楸瑛も春麗 の評価はなかなか高いものだな」
「そうですね…一つだけ知っていることをお話ししましょうか。絳攸がどこまで話しているかわかりませんが、彼女は、国試のための勉強をしている感じはしませんでしたよ。秀麗殿が絳攸について学んでいた時も、参加せずに家事をしていました」
「それで状元か…」
劉輝はため息をついた。
秀麗と関わるために、敢えて関係を持たないようにしていた春麗だが、そこまでの者であるなら、考えをあらためた方が良さそうだ。
楸瑛が話を戻しますが、と言ってから告げた。
「もう一つ、藍家の情報網に引っかかってきたものがあるのですが」
「なんだ?」
「現在、紅家名代・紅玖琅殿が貴陽に入都、邵可様のところにいっているとかいないとか」
劉輝は真っ白になって固まった。
「ここ最近、秀麗殿の身辺整理をしてくれていたのは、黎深殿ではなく玖琅殿だったようです。だから最小限の被害にするべく頑張ってください。紅本家を怒らせたら怖いですよ」
「も、もう少し奴が調子に乗ってくれれば打つ手もあるのだが…」
そこへ別の声がする。
「安心しろ、調子に乗せた。紅秀麗の進士返上を求める連名書だそうだ、で、ついでに紅春麗も名前が上がっている。明日正午にでも査問会を開くべき、だそうだ」
「でかした絳攸!!明日の午に査問会だな?開いてやろうではないか、秀麗のところへは余が行く」
「なるべく早く帰ってこい。恨むならあのカツラじじいを恨め」