花は紫宮に咲く−1
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「うーん、なんかおかしいのよねー」
「僕の方も、ちょっとヘンだなーって思うことがありますよ」
秀麗と影月は冊子を交換する。
「…これ」
「同じ部署ですねー」
「ね。魯官吏の課題、これにしよっか?連名で」
「いいかもしれませんねー何書いても自由、って言ってましたもんね」
楽しそうな声を聞きつけて、ちょうど手伝いに来た春麗が会話に入ってきた。
「あら、二人とも楽しそうね、どうしたの?」
「春麗、見て。これ…私たちの課題、これにしようと思うの」
春麗は渡されたものを見て、目を光らせる。
「面白そうね…いいんじゃない?これは二人でやるといいわ。わたくしも、ついでの課題でこれに付随するものをまとめているの」
「え?なんですかー?」
「できてからのお楽しみ。そっちのはよろしくね」
影月ににっこりと微笑んでおく。
「春麗の課題はそれなの?ついでの課題、って言ってたけど」
「あ、ううん。ちゃんとした課題は別よ。まだ構想中だから、そのうち話すわね」
「お前たち、何をノンキにくっちゃべってる、さっさとやれ!」
今日も珀明が青筋立ててやってきた。
翌日、珀明のおかげで実に秀麗はひと月ぶりに我が家に帰ることができた。
秀麗も影月も緊張の糸が切れたようにどっと疲れが押し寄せ、寝室に辿り着く前に沈没した
「無理もないね。ここひと月、心身ともに疲れ切っていたろうから」
「…そうですね。ところで、春麗お嬢様は?」
「え?先に帰ったんじゃないのかい?」
「いえ、同じようにひと月おかえりではありません」
「…まさか、まだ宮城に?」
「一体何をされているんでしょう?」
父親と家人に不思議がられていた春麗は、その頃、いつぞやの侍童の格好で、外朝にいた。
どこからどう見ても、状元進士の紅春麗には見えない。
「お久しぶりです、今日は侍童の天寿です!一日だけ出仕してます!お仕事ありますか?」
戸部に入っていって挨拶すると、
「天寿くん!」と景侍郎が寄ってくる。
「礼部行きの書簡運びがあれば承ります」
みょうに具体的な要請に対し、尚書と侍郎は顔を見合わせる。
「この案件を片付けるか…三往復ぐらいしてもらうことになると思うが」
「はい!」
「尚書決済案件だ、気をつけて行け」
「いってきます」
駆け出す姿を見送る。
「天寿くんはもしかして何か調べているんですかね…?」
「だろうな」
「顔色が悪かったですね」
「3往復したら寝かせる。おそらくほとんど寝てないな」
休日までしれっと出てくるのは侍童でいた時と変わらないが、明らかに過剰に無理しているのが目に見えて、二人はため息をついた。
心配されているとは露知らず、春麗は礼部尚書の確認を待つ間、耳をそばだてる。
チラチラと聞こえてくる噂話をはありもしない捏造で。
誰が発信しているかを確認していく
鳳珠様が三往復の理由をくださったのだし、ときっちり三往復した。
時間が経つにつれて、宮城全体に噂話は浸透していく。
(全く、秀麗がいないからって露骨よね…叔父様まで手を伸ばすかしら?)
「ただいま戻りました。妙な噂が出始めてますよ?」
「お帰りなさい、天寿くん。こちらへ」
なぜか”立ち入り禁止”の札のかかった仮眠室に連れ込まれる。
仮面を外して仁王立ちした尚書が立っていた。
「お前、どれだけ寝ていない?顔色が悪すぎる。なんで今日そんな格好で出仕しているんだ?」
「!!え、っと…それより、お耳に入れたいことが…」
「天寿くん、官吏は健康第一ですよ。少し寝てください」
「でもっ!」
「でもじゃありません!天寿くん、毎日府庫で秀くんと杜進士のお手伝いもしているでしょう?どう見たって春や夏にいた時と顔つきが違います。今日は最低でも二刻は寝てもらいますからね!」
普段温厚な景侍郎のすごい剣幕に、タジタジになる。
あれよあれよという間に、長椅子に横にならされた。
「長椅子で悪いですけれど、ここに横になってください!明るいと眠れないでしょうから、目元に手巾を載せておきますね。掛布もちゃんとかけて。起きたり仕事したらダメですよ、お話は後で伺いますから。では、おやすみなさい」
二人はそのまま出て行った。
(別に眠くないんだけどな…)と思ったが、睡眠不足が祟ってたのもあり、程なく眠ってた。
一刻が過ぎた頃、扉を開けて鳳珠が様子を見る。
(無理するなと言っておいたのに)
頭をひと撫でして、お茶とお菓子を置いて出て行った。