花は紫宮に咲く−1
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いつも通り皿洗いの後、礼部で工部宛の書簡を探して手に取り、向かう。
(さて、”酔いどれ尚書”と鳳珠様に言われた管飛翔尚書ははどう出てくるか…)
「失礼いたします。紅春麗、入ります。礼部よりの書簡をお持ちしました」
礼をして中に入る。
「ここは女子供の来るところではない、帰れ!」
「悪いことは言いません、あなたの相手をする気はありませんから早めに退散された方がいいですよ」
(あら、こちらは反対派だったんですね)
あからさまな拒否の対応を見て、ちょっとだけ首を傾げて柔らかく言った。
「そうはおっしゃられても、こちらの書簡の決裁を頂かないと、案件が先に進みません。その他の部門の方にご迷惑になります」
「あぁ?んなもん関係ないんだ、他のものに持って来させろ!陽玉!つまみ出せ!!」
「何度言ったらわかるんだ!俺は玉だ!トリアタマ!」
侍童時代に管尚書と欧陽侍郎の仲の悪さは知ってはいたが、目の前で繰り広げられる何の生産性もない無駄なやりとりに、わざとらしくはぁ〜と盛大にため息をつく。
「好き嫌いはともかくとして、たかだか使いっ走りの進士相手にも関わらず、感情で人を選んでお仕事をされるなど…随分と余裕がおありのようですね、工部の方は」
春麗はすっと表情を消し、春麗に手を伸ばしかけた欧陽侍郎はぴたりとその腕を止める。
「女人官吏は男性の官吏と同等に扱うと、法案が通っております。故に、わたくしはまだ進士ではありますが官吏の端くれでこの仕事を担っております。それでも、女人だからという理由で拒否なさるのでしたら、わたくしも”それなりに”動かせていただきます。失礼いたします」
きちんと礼を取り、踵を翻したところで
「待て!」
と声がかかる。
「そこまでいうなら、俺と勝負しろ!」
ドンっと酒瓶を出す。
「勝ったらその書翰、押してやるよ」
(仕方ない、か)
「わかりましたわ」
茶杯と酒が注がれる。
見えないように懐から銀の花をとり、一つ浮かべて確認する。
(さすがにここは大丈夫ね)
グッと一気に煽り、花を取り出し空になった茶杯を差し出す。
「ねぇちゃん、やるな」
飛翔の目が光った。
次から、少しずつ強い酒を出されている。
様子伺いをされているのはわかったので、何も言わずに付き合う。
「胃にくるといけないので、少し食べてもいいですか?」
「構わねえけど、食いもんはないぜ」
「持っていますから大丈夫です」
懐から菓子を出して一つ食べる。
そこから大して話もせずさらに3杯ほど付き合ったが、
(・・・時間の、無駄だわ…さっさと終わらせたいわね。おそらく、ここには彩雲国で一番強いあのお酒があるはず)
「次の仕事がありますので、時間もありません」
「んぁ?やっぱり尻尾巻いて逃げるってのか?」
「いえいえ、途中で投げ出す気はありませんが、魯官吏から時間については厳しく言われておりますので、短時間でお願いしたいのですが…尚書がお持ちの一番強いお酒を茶杯で3杯、全て飲み切ったらわたくしの勝ちとさせていただいでもよろしいでしょうか?」
「魯官吏か…仕方ないな。陽玉、あれ持ってこい」
トクトク・・・注がれた酒は透明。
(やっぱり、茅炎白酒ね、ものも悪くなさそう)
「では、いただきます」
コクコク…とゆっくり飲み干す。
「次を」
顔色ひとつかえず二杯飲みきった時点で、飛翔と陽玉は顔を見合わせた。
「これで最後の三杯目ですね、お約束通り、飲み切ったら書簡に押印してもらいます」
同じようにゆっくり飲み干し、ゆっくりと杯を口から離す。
「ごちそうさまでした」
妖艶に微笑んだ春麗に、飛翔と玉はゴクリと喉を鳴らした。
パッと表情が変わった春麗は
「お約束は守っていただきますよ、さっさと書簡に押印してください!!」
と言い、剣幕に押されて押印をもらった書簡をくるくる巻いて
「では、失礼いたします」
と何事もなかったかのように去っていった。
その後、状元の女進士が工部尚書と飲み比べて勝ったらしい、という噂が宮城中に回ったのは言うまでもない