花は紫宮に咲く−1
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その日の午後、書翰配りで吏部にいった春麗は、まなじりを釣り上げた黎深と対峙していた。
あいにく、次の仕事は吏部で受け取ってからでないと始まらない。
「春麗、こっちへ来い」
衝立の裏の長椅子に追いやられる
「お茶ですか?」
「お茶ですか、じゃない!君はいったい何日寝ていないんだ!」
「…仮眠程度なのは秀麗も影月殿も珀明殿も同じようなものですよ?大丈夫です」
「私の目がごまかせると思っているのか!平均一刻以下、徹夜3日連続だろう?」
(う…さすが黎深叔父様…)
”天つ才”の叔父をごまかすなど無理なこととわかっていながら、一応抵抗はしてみる。
「そこまでひどくないですよ?秀麗たちが大変な時に、わたくしだけ叔父様に甘えて寝るわけにはいきませんわ」
「言い訳は聞かぬ。今から二刻は寝ろ。いろいろ調べているようだが、こんなことでは身体が持たないぞ」
横にならせてバサッと顔に手ぬぐいをかける。
”大丈夫です”はどこへやら、横にならされた途端に疲れがどっと出て、そのまま眠ってしまった。
黎深は盛大にため息をついてから、(なぜ兄上は気づかないのだろう?)と不思議に思った。
毎日、府庫に泊まり込みをして彼らを守っているのに。
邵可第一主義の黎深だが、春麗との関係性においてだけは兄を信用していなかったのである。
半月を過ぎた頃、秀麗と影月の書簡整理の量が減ってきた。
正確にいうと、泥団子事件以降、他部署の風当たりが一気に弱まった。
彼らが頑張っていることを認められたのだと思うが、当人たちは気がついていない。
黎明に近い府庫。
秀麗、影月、珀明の三人は座布団を並べて仮眠している。
三人が寝る時間はだいぶ増えた。
少し離れたところに灯りをつけ、春麗は書き出した料紙を眺めていた。
(吏部、戸部、礼部…戸部と吏部はあの忙しさでは暇にしている下官なんてそもそもがクビだから調査不要よね…というかやっぱり礼部がおかしいんだわ…)
(兵部、刑部、工部…兵部と刑部は侍童時代はともかく、今はほとんど書簡まわりがないから難しいかしら。工部…まだ一度も行っていないから、ちょっと行ってみようかしらね)
その日の予定が決まった。
この先に起こることを、春麗はまだ知らない。