花は紫宮に咲く−1
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「全く。泊まるところないなら、なんでうちへ来ないわけ?」
秀麗はため息をつく
「お金がないのは自業自得なので、そんな甘えるわけにいかないと」
「あら、状元には銀八十両が俸禄として与えられたはずよ?」
ちょうどお皿を並べに出てきた春麗が口を挟む。
同じ状元だったので金額に間違いはない
「それが、その日のうちに全部郷里に送ってしまって」
「…全部ですか?」
「ちょっ、待って、影月くん、故郷に及第の文は出したんでしょうね?」
「いえ、礼部からの連絡の早馬を出してくれるというお話だったので、その早馬にお金も託したんですけど、文の方は頭になくて…」
「あなた、豪快というか無謀というか・・」
影月は勉強はできるがまだ子供、その辺りは抜けているらしい
「そういうお嬢様も気をつけてください。あれほど一人での外出は避けるようにと申し上げたのに」
「そうよ秀麗、それから影月さんも。国試の上位及第者は多額の俸禄と特権が与えられるのだから、ごろつきの格好の餌食よ」
わかっていなさそうな二人に解説をする。
分が悪くなった秀麗が、徐に話題を変えた。
「影月くんが状元及第してくれて本当に救われたわ」
「え?」
「進士式トンズラしやがったあの男!」
そこから秀麗は龍蓮への文句を散々言いながらドカドカと怒りに任せて麺棒を生地に叩きつける。
みるみるうちに引き伸ばされる生地に影月は目を泳がせた。
「私、”容姿が十人並みでも、貧乏で持参金がなくとも気にするでない。そなたが嫁き遅れた暁にはこの私専属の庖丁として召し使わす”って真顔で言われた時は本気で鍋に毒キノコ入れてやろうかと思ったわ。藍将軍の弟さんだから必死で我慢したけれど…」
「…それは、どうもありがとう。我が弟ながら全く耳が痛い…」
疲労感を全開にした楸瑛が現れる。
隣の絳攸は無言で呆れ顔だ。
しまった、と秀麗は慌てて取り繕った。
「あ、今のは冗談ですから!すぐにお夕飯にしますね!!」
「影月さん、今のうちに、故郷のお道寺さんに確認の書状を書いたらいいわ。ついでに合格の連絡も。うちで出しておいてあげるから」
と春麗は影月に料紙と筆を渡す。
「そうだね、いくら礼部から早馬が出るからといって、やっぱり影月くんが自分で報告してあげたほうが、待っている人も嬉しいのではないかな」
邵可が優しく諭して、影月は頷き手紙を書き始めた。
いつものように食卓を囲む。
「そういえば、吏部試は何時ごろになるのですか、絳攸殿」
「まだ知らせが届きませんが…今年は例年よりやや遅いようですね」
絳攸の歯切れが悪い。
餃子を突いていた楸瑛が、みょうにニヤニヤした
「あ。もしかしたら、私たちの年みたいになるんかな、絳攸」
「かも、しれん。今日、上司が主上に呼び出されたしな。まぁ、妥当な選択だが」
二人は顔を見合わせて頷いた。