はじまりの風−1
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今日も春麗は姮娥楼の賃仕事のため、花街へ脚を運んでいた。
母親の薔君似の美貌とスタイルを持っているため、近頃は声をかけられることもしょっちゅうだが、下町の親分衆が下の者に指令して守っているため、襲われたりすることはなくむしろ安全である。
ちなみに、秀麗は昼間の帳簿付けが、春麗は夜の琵琶演奏が賃仕事だが、春麗が働いていることを秀麗は知らず、父親と静蘭は両方知っていて知っているが黙認していた。
「大旦那、今日もよろしくお願いいたします」
挨拶をして中に入る。
「春麗ちゃん、すぐにお邸に戻ってほしいと手紙と言伝がきているよ」
「えぇ?今日の仕事、これからなのに?」
「仕方ないから今日はいいよ、早く戻ってあげなさい」
せっかく歩いてきたのに…と思いつつ
「急に何かあったのかしら…?それならごめんなさい。失礼いたします。また明日来ます」と言って、邸へ引き返した。
邸に帰ったら
「金500両〜〜〜!!!???」
「やります!」
という秀麗の素っ頓狂な声が聞こえた。
走って室に入れば霄大師がニヤニヤとして座っている。
(これはまずい!)
「ちょっと待って秀麗、なんのこと?」
「春麗、黙ってなさい、ありがたくも霄大師が金500両でお仕事を下さるというのよ?」
(うん、金に釣られてますわね)
「霄大師、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。紅邵可が娘、春麗です」
貴族の子女として、きちんと礼を取る。
「今お伺いしたところ、お仕事を下さるようですがどういった内容でしょうか?」
春麗は明らかに青筋を立てながら、至極丁寧に尋ねる。
常にない剣幕と、関係を知っている邵可が隣で小さくため息をついた。
「静蘭殿には一時的に羽林軍に特進し、主上付きになっていただく。秀麗殿には後宮に入って、王の妃になってもらいたい。春麗殿には秀麗殿を支える女官と、もう一つ別の仕事をしていただきたい。」
(クソジジイ)
心の中で春麗は呟く。
「別の仕事とは?」
「それは受けてもらった後、始めるときに伝える」
(危険極まりない…)
「それでしたら、三人分の給金をいただかないといけませんね。あ、でも、私が女官と三師付きということは一人で二人分の給金が必要ですわね」
一息ついて続ける。
「先程の金500両は、一人当たりとしたら、四人分で2000両になりますわね」
綺麗な顔でしれっと伝える。
(誰がそんなめんどくさいことをするものですか、これだけふっかければ撤回するでしょう)
「ちょ、春麗、そんな・・・」
秀麗が慌てて止めようとするが、手で制する。
「・・・春麗殿はなかなか交渉術に長けておるのぅ」
霄大師は薄気味悪い笑みを浮かべて見てくる。
「春麗!いくらなんでも失礼よ!」
秀麗は本気で怒っているが、それは無視して
「おかげさまで、仕込みがよろしいようで」
としれっと答えておく。
「む・・・よかろう、三人で2000両払おう」
(え???う、そ…どこにそんな金があるっていうのよ!?)
まさか、飲むと思わなかった。
驚きつつも二つ返事で了承する秀麗と対照的に、春麗がガクッと項垂れた。
邵可にポンと肩を叩かれて、”仕方ない”と言わんばかりに首を振られる。
こうして、三人の”賃仕事”が決まった。
何も知らない秀麗は意気込んで顔をあげ、春麗は怒り半分落ち込み半分という顔でうつむき、静蘭と邵可は困った表情で二人を見守っていた。