黄金の約束−5
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その夜。
愛しの兄に角度が二三二度違う評された紅黎深が上機嫌で出かけた先は、同僚である戸部尚書、仮面の黄奇人邸だった。
いつも通りの予告なしのお仕掛けだったが、今日ばかりは珍しく文句も言わずに受け入れる。
今日から藍楸瑛が休暇を取ったことも、藍龍蓮が藍邸に戻ったことも知っていたからだ。
二人きりになると、仮面を外す。
「藍龍蓮、か。どう思うのか、黎深?」
「は?別にどうも。興味ないが」
「即刻帰れ!茶など出さん!」
茶を取り上げて怒鳴る
「あ、鳳珠のけち…」
鳳珠は国の行く末を真剣に考えているからこそ官吏になった。
兄の近くにいたくて官吏になった自分とは違う。
「人事を司る吏部尚書として言わせて貰えば、朝廷に彼の配属場所はない。独自の理論でしか動かないー利用出来ない紙一重に用はないね。必要なのは多数の秀才と少数の”他人に理解できるなんちゃって天才”であって、”真正の天才”はむしろ邪魔なだけだ」
「からいな」
「…事実だよ、君は彼とは違う」
「だが、重要な存在だ」
「あぁ、分かるものにとってはこの上なく重要な存在だね。あの洟垂れ小僧がどう出るかせいぜい見物させてもらう」
(あのバカ王には無理だろうがな)
鳳珠はしばらく考えていたが、ふと気になって聞いてみた。
「そういえばお前、藍龍蓮の件じゃなければ、何しにきたんだ?」
「君に新しい贈り物を持ってきたんだ」
「それを持って今すぐ回れ右しろ」
黎深はいそいそと包みを開く。
「今度のは、かなり力作なんだよ!なんたって私のためでもあるんだからね」
ぱらりと扇の如く仮面を開く
「うっ」
鳳珠は絶句、黎深は気味の悪い笑みを浮かべている
「どうだいこの兄上の表情仮面!これが満面笑顔、ちょっと笑顔、少し困り顔、しょーがないな顔、他色々!」
(確かに力作だ!恐ろしいほど邵可殿に瓜二つ…はっきり言って薄気味怖い!!)
「さあさあさあつけたまえ鳳珠、今から予行演習をするのだからね」
黎深はゲフン、と誇らしげな咳をした。
「兄上のお邸にお宅訪問するときのね。やっぱりそろそろ潮時かなぁって」
うっとりとした顔で続ける
「絳攸をダシにして遠回りに近づいてはや一年、夏にはどこぞのシゴキ仮面上司からたくさんかばってお手伝いして”素敵な叔父さん”と秀麗に好印象付けた。愛しの姪へのつかみは完璧」
兄上の”しょーがないな顔”仮面を赤らめながら見つめる
「でも兄上とは最近、あ、あんまりまともに話せいていないから心配でね」
・・・ばかだ、こいつ。
鳳珠はたっぷり三拍ほど固まってから口を開いた。
「言っとくがな、秀麗のお前への印象は”変なオジサン”だぞ。勝手に妄想漢字に変換するな」
「嘘つくな!」
「だいたいお前、近づいているのは
「キ、キセツノタヨリだって?まさか、君…」
黎深はみるみる青ざめ、
鳳珠は美貌の綺羅綺羅を倍増させ、得意げな顔で攻撃する。
「ああ、秀麗も春麗も、あれから折々に文を交わして親密度をあげている」
(実際はほとんど春麗だが…秀麗からももらっているから嘘はついていない)
鳳珠の光り輝く美貌、現在最高値到達。
「あの娘を嫁にもらってお前と親戚になるのは死ぬほどごめんだが、このままだと一生幽霊親戚のままだな。杞憂に終わりそうで一安心だ」
「オジサン…ヘンナオジサン…、キセツ、タヨリ…」
黎深は絶望のあまりぶつぶつと言って、無意識で邵可仮面を包みに戻すと、フラフラと出て行った。
忘れていったちょっと笑顔仮面を手にし、
「あなたを尊敬しますよ、邵可殿」と言った。
鳳珠にはわかっていた。
黎深もまたこの世に僅かなる”天つ才”
ただ黎深には途方もない確率の幸運、邵可殿がいた。
「黎深の全てを包み込める邵可殿という存在がなかったら、私も今のようには付き合えなかっただろうな」
彼の世界と自分たちの世界をつなぐのは邵可殿のみー
「秀麗は、妙なのにばかり好かれるわけだ。この笑顔で平然とあの黎深を丸ごと受け入れてしまう邵可殿の娘なのだから」
そして、同時にもう一つ思う。
なぜ、あの黎深を包み込める邵可殿が、もう一人の娘、春麗のことになると、なぜかうまくいっていないように見えるのはー