黄金の約束−3
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数日かけて案の整理をし、清書を終えて、吏部に向かう。
滅多に自ら執務室から出ない戸部尚書が来たと、吏部官たちは大騒ぎになった。
「黎深、入るぞ」
尚書室を開けたら、書簡の山。
「貴様、仕事をしろーーー!!!」
鳳珠の怒声に悪鬼巣窟の吏部官吏たちも真っ青である。
乱暴に扉を閉め、衝撃で崩れた書簡をかき分けて奥に行くと当の吏部尚書は踏ん反りかえって座っていた。
「鳳珠。珍しいな、何しにきた」
「これを。お前の姪たちのために、戸部で作成した。お前は身内が受けるから提出できないだろうと思ってな。同期愛に感謝してくれ」
ぽいっと書簡をわたし、空いている椅子に座る。
黎深はペラペラとめくり「フン」と面白くなさそうに言っただけだったが、書簡を手にして徐に立ち上がり、「鳳珠、行くぞ」と手を引いて室を出た。
黎深に引っ張られる形でついたのは”悪夢の国試組”管飛翔が尚書を務める工部。
「酔いどれ尚書はいるか!?」
「なんだ黎深、うっせーな」
ぽいっと書簡を投げる
「それをよく読め、朝議にかけられたら賛成しろ!」
飛翔はペラっと初めの頁を見て
「女人官吏の規定についてだぁ〜?俺は反対なんだよ、こんなもん賛成に回るか!!」
書簡を投げ返す。
鳳珠は床に落ちたそれを拾い
「飛翔、これは戸部として提出する。もし女人官吏が誕生した場合、そこから色々決めて行っては通常の業務に差し障る。戸部はどこぞの誰かのせいで、万年人手不足だからな、先に準備をしておきたい。頼む」
と言ってもう一度渡した。
もともと真面目な奴だが、いつにない真剣な様子に「わかった」と受け取る。
起案者に景柚梨・黄奇人と並ぶ名を見て
「本当に戸部として真剣に出しているんだな」
とつぶやいて、目を通し始めた。
最後まで読んで、「独り身の俺にはよくわからんが、まぁいいんじゃねーか」と言って、書簡を返す。
「てめーら、せっかくここまで来たんだから飲んでいけよ!」という声に
「誰がお前と飲むか!鳳珠、帰るぞ!」
と言って、また黎深が引っ張って工部を出た。
歩きながら、黎深が鳳珠に聞く
「上奏はどうするつもりだ?」
「王に、直接。馬鹿王自らの案だからな、事前にここまでやってから通すものだということも伝えたい」
「ふん、相変わらず君は真面目だな」
ズンズン引っ張って王の執務室まできて、扉を叩いた後に返事を聞く前に開ける。
断りもなく入ってきたのを咎めようと楸瑛が出るが、紅い衣の吏部尚書に黄色い衣の戸部尚書が引っ張られる形で入ってきたのを見て、一瞬面食らう。
「こ、紅尚書に黄尚書、余に何か用か?」
ド迫力の二人に、すでにタジタジの主上。
絳攸は「なんでこの人がここに!?」と硬直状態である。
鳳珠が口を開く。
「先日の”国試女人受験制”ですが」
「二人が賛成に回ってくれてなんとか可決できた、感謝する」
鳳珠は怒りで声が一段下がった。
「主上、それだけですか?可決しました、試験やりました、合格者出ました、で済むと思っていますか?あなたはこれを1回こっきりにするような考えなのでしたら、今からでも潰しに行きます」
「そ、そんなつもりはない」
劉輝はさらにタジタジになった。
実の所、秀麗を通すことしか考えていなかったのである。
そして、それは鳳珠にも、もちろん黎深にもわかっていた。
「これから続けていけば、女人官吏の人数も増えていくでしょう。待遇はどうする?女人の場合、結婚したら出産する人も多い。それについてどう考えている?そういう議論を踏まえた上で、初めて受験について話し合うべき問題だ!!」
「・・・すまない・・・」
先程の書簡を渡す。
「これは、戸部として景柚梨と私が起案しました。実際に今年の国試で女人官吏が誕生した場合、後からいろいろ整備をするのは大変だし、戸部は万年人手不足なので、余計なことに拘っている暇はありません。今のうちに決めておけば、バタバタしなくて済みます。これを主上自らが朝議の場でかけて、通してもらえなければ、一度決めた今年の受験制度の廃案を議案にかけますので、そのつもりで。ちなみに、私は門下省への上奏もしませんし、根回しはいっさいしませんから、うまいことあげてください」
と言うだけ言って、鳳珠と黎深は退室した。
「鳳珠、君も容赦ないね。あれで通らなかったらどうするんだい?」
「あの内容なら通る、と思ったから、飛翔のところに持っていったんじゃないのか?反対派筆頭だっただろう」
ゆるゆると回廊を歩きながら話す。
「一つ二つ、揉めそうなタネを仕込んである。そこで揉めることで、他はすんなり流れるだろう」
「あとは、あの馬鹿王の手腕次第、ということか」
鳳珠は一つ気になっていたことを思い出した。
「そういえば、後見はどうするんだ?流石にお前が二人とも見る、というわけにはいかないだろう」
「私としては二人まとめてみても構わないし、最悪、本当に最悪だがどちらか君に頼もうかと思ったりもしたのだが、あの法案を出したということは頼めなくなったな。本人と相談だ」
受験資格は”大貴族もしくは正三品以上の高官の推薦が必要”となっていた