黄金の約束−3
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猛暑も和らぎ始めた夏の終わり、一つの議案が可決された。
”国試女人受験制”である。
当初一笑に付されていたそれは、王自身が作成した綿密な草案と、根回し、討議の結果、次の国試において実験的に導入されることが決まった。
この件に関しては反対していた黄戸部尚書が突然賛意を表したことが最終的に可決となった最大の要因である。
その日の夜、戸部ー
「柚梨、遅くに悪いが話がある」
黄戸部尚書は腹心の部下で年上の友人でもある景戸部侍郎に声をかけた。
呼ばれていけば。茶まで用意されている。
これは長くなる、と思い、残っていた戸部官に「終わったらそのまま帰って構いません」と声をかけ、尚書室の扉を閉めて座った。
「これを」
書簡を渡され、手に取り読み始める。
「鳳珠、これは…あなたが考えたのですか?」
「あぁ」
「いつの間に」
次々と頁を捲る。
最後まで読んでパタン、と閉じてまっすぐ顔を見ると、仮面を外した姿でじっと柚梨を見ていた。
「あの”国試女人受験制”、本来であればしっかり議論し、理解情勢や法整備をし、さらに子女の教育を行った上で行うものだ、普通なら10年近くかかると思う。それをこの半年で”受験制度”だけ決めてしまった。法整備がされていない行き当たりばったりでは、後で揉めることになる」
「そうですね。禄についても男性官吏と大きく差があるとそもそも大変な国試を受けて官吏になろう、という人は現れないし、今回、1人か2人だとしても、このあと増えてきた時に、特に女性の場合は結婚や出産もあるでしょうから…初めから退官しかない、という状態では、どの女性も官吏になろうなどと思わないでしょう」
鳳珠はうなずく。
「ところで鳳珠、あなたははじめにこの話が出た時に黙って退席することで反対意見を表明していましたよね?なんで急に賛成に回ったんですか?私には教えてくれてもいいじゃないですか」
「さっきも話した通り、時間さえかければ、と思っていたのは事実だ。それを次の会試で、と馬鹿なことを言い出したから反対した。だが…女人でも、優秀で可能性が皆無ではない、ということを知ったからな」
柚梨は首を傾げる
「どういうことですか?」
はぁ〜と鳳珠は呆れたようにため息をついて言った。
「柚梨、お前、まさか本当に気づいていなかったのか?・・・夏にいた天寿と秀、あれは二人とも女の子だ」
「えぇぇぇぇ!!??」
天地がひっくり返ったかの様に柚梨が驚く。
フン、と鼻で笑ってもう一つ衝撃の事実を付け加える
「あの二人は、府庫の紅邵可殿のご息女だ。つまり、吏部尚書の姪にも当たる。まぁ吏部尚書との関係を知っているのは天寿だけで、秀にあいつは叔父の名乗りをしていないがな。だから、春は黎深は戸部によくきていたが、夏はさっぱり来なかった。それから、天寿が春にきていたのは全く別の理由で、偶然らしい」
「ど、どうしてそれを教えてくれなかったんです!?」
「さて、どうしてだろうな?まぁ全容がわかったのは夏になってからなんだが、女の子ということは気づいていて言わないのかと思っていたんだが」
少し意地悪く鳳珠は笑った。
もう一度、ペラペラと書簡をめくる
「だからあなたは賛成に回って、これを用意したんですね、彼らのために」
「あぁ。黎深が賛成することは、事前に確認して分かっていたし、秀が官吏になりたがっていることも聞いていた。天寿は初めはそのつもりはなかったようだが、おそらく受けてくるだろう。だからこれを、柚梨の力もかりて上奏したい。連名で」
「え?」
「特に禄に拘る部分が大半を占めてくるので、戸部の管轄だから違和感はないだろう。何かあってからバタバタするより、先に決めておきたいと言っておけば自然だ。連名にしたいのは、”戸部として”提出する様にしたい、というのもあるが、その…柚梨は子供がいるだろう、奥方の意見を聞きたい。想像はしづらいかもしれないが、もし自分が柚梨みたいに働いていて、子供ができたら、また産まれたらどういうことが必要か、というのを聞いてほしい。これは、見せてもらって構わない」
柚梨はほとほと感心して
「鳳珠、あなたは…分かりましたよ、一緒にやりましょう。妻にも協力させますよ」
と笑顔で答えた。