黄金の約束−3
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あらかじめお願いしてあったように、定刻より一刻前に上がり、邸に戻って着替えた後、邵可一家と燕青はお墓参りに行った。
秀麗は今までになく心が落ち着いている様子で手を合わせ、反対に春麗は何か迷いがあるような表情で手を合わせていた。
「父様、春麗。昨日、絳攸様から国試の女人受験制の草案提出を進めている、と聞いたの。最低でも実力で二十位以内に入ってもらう、と言われたわ。私が上位で受からないと、次の年以降に繋がらないから、と。私、受けます、って答えたわ」
まっすぐに二人を見て言う。
「秀麗が決めたことなら頑張りなさい」
と邵可は静かに言った。
必然的に視線が春麗に集まる。
静蘭も燕青も自分を見ている。
春麗は4人に背を向けて、もう一度、墓前にしゃがんだ。
お墓をひと撫でする。
「母様、母様が亡くなる時、わたくしに言ってくださった言葉があったでしょう?」
”春麗は春麗の人生を歩むのじゃ”
心の中でその時の様子を再現する。
そう、これには続きがあった
”妾にとっての背の君のように、大切な人を見つけ、妾にとっての春麗や秀麗や静蘭のように、大切な者を大切にして過ごすのじゃ”
「わたくし、母様の言葉も約束もいつの間にか忘れていたし、母様が本当に言いたかったこと、わかってなかったのかもしれない…ある方にね、同じ言葉を言っていただいたの。それで、思い出したわ」
秀麗が「それは何?」と聞こうとするのを、邵可が肩に手を置いて首を振って止める。
「母様、(わたくしはわたくしの人生を歩みます)もう一度、お約束しますわ」
一番大切な部分は、心の中で告げた。
まだそれがどんなものであるか、自分でもわかっていなかったからである。
立ち上がり、振り返る。
父様の顔をまっすぐ見て、答える。
「国試は、受けますわ」
その瞬間、目の前に見たことのない人たちが見えた。
「!!」
慌ててしゃがみ込む。
(これは、いったい…)
一瞬のことで、なんだかよくわからなかった。
パチパチと瞬きをしてみると、元の景色になっている。
(”国試”と言うものに対しての先が見えた?人の人生の先だけじゃなくて?)
首を傾げながら立ち上がる。
「大丈夫か、春麗姫さん」
「えぇ、平気よ、ちょっと立ったり座ったりしたから、立ちくらみがしただけ。そろそろ帰りましょう」
と言って有無を言わさないように、さっさと歩き出した。
4人は複雑な顔を見合わせた後、お墓に向かって話しかけていた春麗の真意がわからないまま下山した。
それから数日、燕青が「明日帰るわ」とあっさりと告げた。
途中まで、4人で見送りに行く。
秀麗のお守り係をしていた燕青に「また行き倒れになったらうちの前にしたらいいわ」などと言われて静蘭が苦い顔をしている。
邵可にしっかりと挨拶をした燕青を見てから、春麗は話しかけた。
「燕青殿、頼みがあります、ちょっとこちらへ」
みんなと少し離れる。
「なんだい、春麗姫さん?」
懐から手紙を出し、秀麗に聞こえないように小さな声で伝える。
「これを…鄭悠舜州尹に。覚えていらっしゃるかは分かりませんが…くれぐれも、無くさないようにお願いしますわね。あと、お身体に気をつけてくださいとお伝えください。」
「あぁ。責任持って届けるぜ」
と小声で答えてから大きな声で、
「それから春麗姫さん、今度会う時は燕青”殿”はやめてくれよな」
クスリと笑って答えておく。
「そんじゃ、姫さんも静蘭も元気でな」
手を振って、燕青はふらりと去っていった。