黄金の約束−3
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いつもより少し長く吏部でお茶をしてから戸部に向かう。
「天寿くん!」
景侍郎が気がついて駆け寄ってくる。
「おはようございます」
小声で「あの、例の…」と話しかけると「それはこちらで」と言って、尚書室にはいるので後を追う。
景侍郎が扉を閉めた。
「おはようございます、黄尚書」
例をしてぱっと顔を上げたら、仮面を外していた。
「おはよう。例のものを出してくれ」
「はい」
懐から布包を出す。
広げるとそこには宝物庫の鍵があった。
「あぁ、よかった!」
景侍郎が泣き出さんばかりに喜ぶ。
「鳳珠、天寿くん、ありがとうございます!!お礼にまだ午前ですけどお茶を淹れますね!」
二人は顔を見合わせてにっこり笑う。
「それにしても、天寿くんがこの顔に耐性があって良かったです。家の方ですら倒れますからね」
「そ、うなんですか?」
「だから鳳珠の邸には、いろんな室に予備の仮面を置いているんですよ」
(確かに、昨日も絳攸兄様が来られらたときに、すぐつけていらっしゃった…)
「景侍郎はどうして素顔をご存知だったんですか?しかも、名前もご本名で呼んでいらして」
「そりゃ、奇人なんてそんなみっともない名前で呼べませんよ。私は同郷でね、鳳珠が州試を受けた時に知り合ったんですよ。その時、鳳珠以外は…私もですけど、全員、顔に見惚れて落ちました」
(昨日の黎深叔父様の話は国試だったけど、州試はもっと酷かったのね…)
お気の毒…という顔をして鳳珠様を見たら、苦虫を噛み潰したような顔をしていて、クスッと笑ってしまう。
「柚梨には悪いことをした…」
「そうですね…でも仮に受かっていたら、”悪夢の国試組”になってましたからね。一年あとで良かったのかもしれません」
「どういう意味だ、それは?」
景侍郎はクスクスと笑ってお茶を出しながら答えた。
「だって考えても見てくださいよ、”悪夢の国試組”ってアクが強すぎるんですよ。黄戸部尚書でしょ、紅黎深吏部尚書に、管飛翔工部尚書、来俊臣刑部尚書、鄭悠舜茶州州尹、姜文仲藍州州牧…みなさん立派な経歴の方ですけれど、本当に癖が強くて…」
「あいつらと一緒にはされたくないな。それに合格は同期ではないが、子美も仲間だ…うむ、確かに、癖が強い」
「でも”悪夢の国試”の由来はあなたが発端ですからね、鳳珠。まあ紅尚書の問題とか、鄭州尹が初めて平民で状元取ったとかいろいろありますが…」
「悠舜が状元は当たり前だ」
「今となってはそう思いますけれど、当時はもう大騒ぎでしたよ。そんな中、あなたが探花だったので、それでも黄州は鼻が高かったですけどね」
懐かしそうに景侍郎は目を細めた。
(悠舜様が状元で、鳳珠様が探花…ということは黎深叔父様は榜眼?)
少し考えた顔をしていたのを見た鳳珠が
「黎深はな、会試最後の”どのような官吏を目指し、国をどう導くか”という問いに”貴様なんかに仕えるつもりはサラサラない!!”と書いたんだ。まぁあれを真面目に答えていたら、悠舜とどっちが状元だったか…今となってはわからんがな、榜眼だ」
くつくつと喉の奥で笑っているが、天寿は目を大きく見開いて、ガクッと項垂れた。
「そういえば、昨日天寿くんが顔を見るか見ないかの時に、あなた、”天寿は大丈夫だ”って言ってましたよね?あれ、どういう意味なんですか?」
(しまった、そこ考えてなかった!というより、完全にその後の騒動で忘れてましたわ)
こういう時はダンマリに限る、と黙っていると、黄尚書が
「いずれ、わかる」
とだけ言って、話を打ち切った。
「そういえば、今日は定刻で上がらせていただいてもいいですか?」
「あぁ、秀からも聞いている。定刻より少し早く出たい、と言っていたから、一緒に出るといい」
「ありがとうございます」
”お礼のお茶会”はお開きとなり、仕事に入った。