黄金の約束−3
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鍛錬で打ち合った時以上に、戦ったあとは神経が昂っているらしく、なかなか落ち着かない。
琵琶もないので何をするか考えた結果、少し散歩させてもらおうと、春麗は庭院におりた。
(きっと、ここはすごく素敵な庭院なのに…ひどい有様になっていないといいけれど)
どこかの室で秀麗たち食事でもしているのか、遠くに談笑している声が聞こえた。
ほんの少し、そちらの方向を見る。
(そういえば食べていなかった)
空腹感もなく、そもそもあの場に自分の居場所はないので、そのままにしてまた歩き出した。
月が高くなっている。
風に樹が揺れる音と、わずかな虫の声の静かな夜。
ふと思い立って、黎深から渡された鉄扇を開く。
手に馴染ませるように、舞の所作でクルクルと弄びながらゆっくり歩く。
(きっと綺麗な庭院だっただろうに、ボロボロになってしまって…)
時折立ち止まって、じっと植え込みを見ていたり、少し歩いては秀麗たちが賑やかに談笑していると思われる室の方をじっと見たり、扇を持て遊びながら歩いたりしているその様子を、回廊から鳳珠がじっと見ていた。
どのぐらい、そうしていただろうか。
庭の隅にある四阿が視界に入ったので、一度そこに行って座る。
家のために秀麗を守ることを考え、剣を習った。
今までは宋太傅との勝負だけだったが、前回の茶太保の事件の時、そして今回の賊との実戦で、戦うための剣術は好きではない、と言うことに気がついてしまった。
おそらく、黎深叔父様が鉄扇を用意していたのは、前回の件で見抜かれていたのだろう。
(じゃあ、どうやって秀麗を守っていったらいい…秀麗を守れなければ、わたくしの存在意義がない…)
じわっと目に涙が浮かぶ。
扇を開いて顔を隠し、縮こまって感情の波がおさまるのをじっと待つ。
ふわり
背中に暖かさを感じる。
扇をそっと閉じると、自分の胸元あたりに視界に黄色い袖と大きな手が目に入った。
パタパタと涙の滴が大きな手に落ちる。
「また泣いているのか?春麗」
「ほう、じゅ、様…」
どうやら、ふわりと抱きしめられていたらしい。
雷の日と同じように、向きを変えられる。
でも雷の日とは異なり、ギュッと抱きしめられた。
顔を上げると、心配そうな、でも優しい表情をした仮面を外した鳳珠と目があった。
「泣きたい時は、私の胸で泣けばいい、昔もそうだっただろう?」
春麗は黙って鳳珠の胸に頭をつけて、それまで我慢していたのか、急にヒック、と泣きじゃくりながら、ポロポロと涙を流す
ふと、出会った幼い時の春麗が”滅多に泣かない”と黎深が言っていた話を思い出した。
子供の時もだが、ここ数回、二人だけの時に春麗はよく泣いている。
(後で涙のわけを聞いてみたほうがいいかもしれないな)
と思いながら、背中を撫でて落ち着かせる。
しばらくして、春麗の泣き声が止まった。
ぽんぽん、と頭を叩いた後、横抱きに抱き上げる。
「ほ、鳳珠様!!」
慌ててジタバタし始めたので、
「おとなしくしていろ」
と言って、そのまま室にはこんだ。