黄金の約束−2
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「まったく、私の養い子をあんなにいじめなくてもいいだろう、鳳珠」
という声とともに、部屋の影から現れた。
「黎深、貴様またうちの使用人丸め込んで入り込んだな。おまけに盗み聞きか」
「絳攸から君の邸に出かけると書簡をもらったのでね」
黎深は手に持つ扇で仮面の紐を引っ掛けて、そっと外す。
怒気をあらわにした超絶美貌があらわれる。
「相変わらず麗しいな」
仮面を弄びながら続ける
「思い出すよ、あの時の国試。君の顔を見たものは私以外、みーんな君に見惚れて落っこちたんだっけね」
(”悪夢の国試”ね…)
天寿は部屋の隅で黙って会話を聞いている。
黎深のことだ、気がついているだろうが、鳳珠と話す方を先にしている。
と言うことは、聞いていてもいい内容と判断して、口を挟まずに大人しくしておく。
「うるさい、この顔のことは言うな。特に貴様にだけは言われたくない」
「まだ根に持っているのか」
「当たり前だ!この顔が理由で振られた俺の気持ちがわかるか?しかもその後よりにもよって、貴様の嫁になんぞなられ日には、仮面でも被らなければやってられんわ!」
(そ、そう言う理由だったんだ…と言うことは、相手は百合叔母様?でも、黎深叔父様のお嫁さんなんて、百合叔母様にしかつとまらない…)
動揺を顔に出さないように、そっと下を向いたものの、目を白黒させている天寿の様子はばっちり鳳珠には見られていた。
思い出したように鳳珠は反撃に出る。
「そういえば、名乗っていない方の姪のそばに出没しているそうじゃないか。ヘラヘラ笑崩れながら秀ー秀麗の手伝いをしている姿は実に奇っ怪だとあちこちで言われていたぞ」
「偶然だよ偶然。君にこき使われていて可哀想でね」
「聞けば”おじさん”などと呼ばせているそうだな、バカじゃないのか」
黎深は扇をプルプルと震わせて答える
「ー君にはわからないんだ、会いたくても会いにいけず、叔父さんだよと言いたくてもいえず、こっそり物陰から見守りしかない私の気持ちが!」
「わかるか、バカ。全然物陰から見守っていないだろう」
あまりにそのまますぎて、天寿は思わず、小声でプっと吹き出して、声を殺して笑う。
チラリと鳳珠は目を向け、これからもう一段階、黎深を揶揄うために言おうとしていたことをやめて、話を変えた。
「あの娘を私のところへ寄越したのはお前か?」
「いいや。その件については絳攸に聞いてくれ。私は一切関知していない。まあ実際に見てもらった方が手っ取り早いと思ったんじゃないかな。それに…”天寿”が春にお前のところにいたことを、絳攸は知らないからな」
「女人受験導入など到底受け入れ難い愚案だ」
「今年から、と主上がいったからだろう?だから君は無言で切って捨てた」
「当たり前だ。時間がなさすぎる」
「そうー時間さえあればあるいは…と君は思った。だから絳攸が送り込んだ秀麗を黙って受け入れたんだ。最初から女の子とわかっていんだろう?」
「…単に人手不足だったんだ」
その後も国試受験の話は続く。
天寿は自分が主上に言ったのと同じことをー時間をかけてやるべきこと、と言うのを話していた。
(本当にその通りよね…)
二人の会話を聞きながら、納得する。
「でも、今は少し違う風に思い始めたんだろう?」
わかったように黎深が微笑む。
「ひとつ訊く。あの王の愚案にお前が反対しなかった理由は?」
「それはね、小さい頃から官吏になりたいと思っていて、私の国一番の素晴らしい兄上が何年も前からじっくり国試の勉強を教え込み、私の養い子がその補足分を叩き込んでいる女人の存在を知っているからだよ」
鳳珠の顔色が変わる
「国試合格圏内か?」
「それも上位で」
「…王のあのバカな案をあの娘は知っていたのか?」
「まさか。もともと兄上に似て学問好きだし、本人は王や絳攸の意図なんか全然知らないよ。官吏になりたくて、無理と知りつつこっそり頑張っていたんだ。なんて健気だろう!」
うっとりする黎深に、鳳珠と天寿はげんなりする。
「ー常識を覆せるような衝撃と効果が得られるようであればー」
言葉を切って定員の騒音に耳を向ける
「あの娘にくっついている髭男もお前の差金か?」
「髭男?絳攸から聞いているが、私は何も知らない」
「なるほど。ものすごい偶然だ。天運も味方しているようだな」
天寿に目くばせして、廊下に出る。
黎深もついてきた。
だいぶ終わりに近づいているようだが、まだ賊退治は続いていた。