黄金の約束−4
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鳳珠が庖厨を覗くと、鍋釜磨きの真っ最中だった。
家人である静蘭はともかく、朝廷の高官ー王の側近二人に主上まで必死で磨いている。
なぜそうなったかはわからないが、とりあえず頼まれた薬を煎じてもらわないといけない、ということで「すまないが…」と声をかけた。
「黄尚書!?」
劉輝が驚いて声を上げる。
「すまないが、これを煎じてもらいたい。水から入れて沸騰したら三分、だそうだ。それと、白湯を頼む」
「さっきは元気そうだったが、また秀麗の具合が悪くなったのか?余は確認してこないと…」
逃げ出そうとする劉輝に黄尚書の鋭い視線が刺さる。
ひっ、と縮こまった劉輝の首根っこをうまく捕まえながら、静蘭が器用に受け取った。
「お嬢様の熱がぶり返したなら、私が持って行きますが…」
「でも秀麗のあの様子ならもう峠は越えた感じがしたけどな…あっ!秀麗の具合が悪いなら、あの人がまた覗いているかもしれない!」
と気がついて絳攸が手を止めて楸瑛に話しかけたが、楸瑛は薄々予想がついていたのか何も答えずに黄尚書の反応を見ていた。
それに気がついた鳳珠は小さくため息をついて、「黎深なら室の前でまだ座り込んでいるぞ」とだけ答えて、あとは無言を貫いた。
「薬はできましたが…」
「私が持っていこう」
鳳珠は静蘭から黙って盆に乗せてもらった薬を受け取る。
「この邸の者たちは…いや、言っても仕方のないことか。なんでもない、気にするな」
と言葉だけを残して、そのまま去って行った。
「むむむ…余は威圧感に負けたのではないぞ…譲ってやったのだ」
劉輝は負けたのではない、と主張しながらも気になって、黄尚書の後ろ姿を視線で追った。
「藍将軍、どうしたんですか?黙りこくって?」
静蘭は気になっていたことを尋ねる。
「ふむ、まだみんな気がついていないんだね。おそらく、黄尚書は春麗殿の室に向かったと思うよ。話しただろう?春麗殿は柳晋くんを守るようにして寒さから庇っていたんだ。この寒さの矢面に立っていたのは春麗殿だ。具合が悪くなっていてもおかしくはない」
「そういえば…、さっき会った春麗は少し様子がおかしかった」
「そうでしたかね?」
思い出したように言う絳攸と、全く気がついていなかった静蘭。
「春麗がいたか?」
といたことに気づきもしなかった劉輝に、楸瑛は心の中でため息をついた。
薬を届けた鳳珠は、そのまま暇の挨拶をした。
葉医師は少し春麗の様子が心配なので泊まるというので任せることにしたのだ。
「黄尚書、何から何までありがとうございました」
邵可は立ち上がって礼をした。
「いや…かまいませんが。お二人にお大事にと伝えてください。黎深はまだ立ち直れていないようなので、私が回収しておきます」
「いつも愚弟が迷惑をかけます」
邵可はもう一度、だが違う意味で頭を下げた。
元いた秀麗の室の近くで、黎深はまだうずくまっていた。
「私は君のおじさん、優しい紅黎深です。ずっと物陰から…毎朝毎晩でも君のお饅頭を食べたいと願い続けて幾星霜…」
「帰るぞ、黎深」
鳳珠は黎深を立ち上がらせてズルズルと引っ張って俥に向かい歩き始めた。