黄金の約束−2
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掃除道具一式を担いだ燕青と一緒に、秀麗は山を登っていた。
「墓掃除かー。でもそろそろ墓参りの時期も終わりじゃねぇ?あ、紫州は違うのかな」
「ううん、母様の命日が明日なのよ。だから掃除しておこうと思って」
猛暑でほとんど咲いていない花を摘みながら向かう。
到着したお墓の前には、お花が飾られていた。
「あらお花。父様か静蘭か春麗がきたのね。先越されちゃった」
「春麗姫さんじゃないか?」
「え?」
秀麗は不思議そうに燕青を見上げる
「今朝、すごく早く邸を出て行ったからな。”出仕する前に寄るところがある”と。どこに寄るか聞いたけど、教えてくれなかったな」
「朝からいないと思ってたけど、公休日なのに出仕してるの??」
「あぁ、まだもう少し人手が足りないから、何か役に立てるんじゃないかって言って出て行ったぞ。俺には姫さんについていてくれ、って言ってな」
「・・・」
いつもそうだ。
春麗は、自分には何も言わない。
元々、春麗は邵可にも静蘭にも何も言っていないのだが、秀麗はそこには気づいていなかった。
なんとなく暗い表情になった秀麗を見て、燕青は少し話題を変えた。
「姫さんの母さんなら、さぞかししっかりして飯のうまい人だったんだろーなぁ」
「なんでも面白がっていたわ。いつも笑って、元気で、たくさん遊んでくれたわ。病弱だった私の看病も、父様と静蘭と三人でつきっきりでしてくれた」
「病弱?だ、誰が?」
「昔は体が弱かったの。何よその目、信じてないわね」
「嘘だろ」
「ほんとよ。あまりにも体が弱くてすぐに熱を出したり寝込んだりしていたから、母様はずっと私につきっきりだったわ。でも母様がいなくなってから、不思議と丈夫になったんだけどね」
「じゃあ母さんの加護だな」
秀麗は俯いた
「その日ね、雷がねぇ、なってたの」
「そっか、だから、姫さん雷が嫌いなんだな」
(小さい時に大人総出で秀麗姫さんにつきっきりだった、ってことは、春麗姫さんは一人だったのか…)
春麗が秀麗だけを避けているようには見えない。
燕青は一緒に暮らしているうちに、春麗が静蘭のみならず父親でさえ、必要以上に寄せ付けないような壁を時折感じていた。
誰にも踏み込ませない春麗の様子を思い浮かべ、そんなことを考える。
ポロポロと秀麗が涙を流す。
「わ、私が母様の命・・・吸い取っちゃったんだぁ」
「んなことあるか」
「私の代わりに、母様死んじゃった」
「もし本当にそうなら、母さんも本望だろ」
「夏…嫌い……雷も…大切なもの、みんなとってくの」
しゃくりあげる秀麗を、燕青はあやした。
「もしかしたら、春麗は私が母様の命をとってしまったから、私を恨んでいるのかも」
「それもあるわけないだろ!そんな疑いを持っているの知ると、春麗姫さんが怒るし、悲しむぞ?」
「…でも、春麗は、私に何も話してくれない…母様や父様や静蘭が私の看病でつきっきりで、春麗はきっと一人だったんだわ。そのうち、あまり邸で見なくなって…」
「そうだとしても、話さなくなったのは別の理由だろうよ。俺にだってなんも話さないぜ。姫さんは、邵可様や静蘭や、そして俺にもなんでも話してくれるだろう?きっと春麗姫さんは、邵可様にも静蘭にも話してないと思うぜ」
「でも、家族なんだから、話してくれてもいいじゃない!」
秀麗は燕青に詰め寄った。
「家族だから、話せないのかもしれないな。性格は人それぞれなんだ。双子だからって、常に同じものを見ているわけではないだろ」
「・・・」
「姫さん、それだけは春麗姫さんに言ってはいけないぜ。家族でなくなって、一生、口を聞いてもらえなくなる覚悟があるなら別だがな」
「…わかったわ」
秀麗は泣きながらため息を一つついた。
「姫さんも、もう16だからな、いい潮時だからそろそろ大人にならんとな!」
「・・・?」
「今年で、暗い夏は終わりってことだよ。周りに心配かけるなんざ、まだまだ子供だ。俺に甘やかしてもらったから、もうできるだろう?」
「…あなた、優しくて厳しい人ね」
「いい男の秘訣だからな!」
ニヤリと笑った燕青に釣られて、秀麗にも笑顔が戻る。
「母様の明日までには、元気になるわ。約束する。」
「いい女に一歩近づいたな、姫さん」
バシッと燕青に背中を叩かれた秀麗は、文句を言いながらもう一度笑った。