黄金の約束−4
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「お帰りなさいませ、御館様」
邸に帰った鳳珠はことの顛末を家令に話した。
「念の為、葉医師に来ていただいた方がいいかもしれませんね。子供が昼の服装で出たとしたら、薄着でしょう。もし山にいたとしたら、風邪をひくでしょうね。雪なので凍傷になどなっていないといいのですが」
「あぁ、そうだな、悪いが頼む。そういえば…」
仮面の顎に手を当てて、鳳珠は少し考え込んだ。
「まさかとは思うが、もしかしたら二人かもしれん。それを葉医師には伝えてくれ」
「御館様、先ほどの話の子供は男児一人じゃなかったんですか?」
「あぁ、一人と聞いている。だが…邵可殿のもう一人のご息女が邸にいなかった。賃仕事かもしれないが…何か気になる」
「かしこまりました。その旨も伝えておきます」
家令は一礼して出て行った。
(確かに、春麗はいなかった…が、邸の者が誰一人、それについて言わないのもおかしい…本当に賃仕事であれば心配はないのだが)
何か嫌な予感が走るのを振り切るように、鳳珠も子供が来た時のために準備を始めた。
その頃、邵可邸では邵可と黎深が、絳攸たちが作った食事を摂っていた。
「心配しなくてもいざとなったら私が行く」
普段ののほほんとした表情を消して、邵可が言った。
「だから絳攸殿に万一のことなどありえない。安心しなさい。だからきちんと腹越しらえをしないとね。お相伴してくれると嬉しいんだけど」
二人はゆっくりと食べ始める。
「兄上を行かせるぐらいなら今すぐ”影”を総動員して少年を探させます」
「今回は誰かを殺しに行くわけではないよ」
「何が目的でも同じです。もう何もしてほしくないんです。兄上と秀麗と春麗にはただ平穏に幸せに過ごしてほしいだけです」
「黎深、君がずっと私を府庫に留めておいてくれたおかげで、この十余年私は君のいう通り、好きな本だけ読んで静かに過ごせたよ。感謝している」
「たった十年です!!」
バン!と食卓を叩いて黎深は立ち上がった。
「それに静かでも平穏でもなかった。兄上が流罪になった公子を拾いに行ったと知ってから、私は何度も先王に刺客を送り込みましたよ」
「霄太師に全て阻まれただろう?」
「えぇ、狸の妖怪ですか、あれは…最後の最後まで兄上を利用して重荷を押し付けて!何が静かな暮らしを約束するだ大嘘つきめ!!」
(よりによって兄上を選んだことは一生許さない!)
「まぁ、座って…全ては私の意志だ。この血まみれの手は誰のせいでもない。私はだいじょうぶだよ、自分で決めて自分で歩いてきた道だからね。重荷なんかじゃなかったよ」
それは邵可の本音でもあった。
多分、黎深にはわかってもらえないと思うが、と心のどこかで思いながら、そっと目を閉じる。
「…幸せだったよ。いつも全開で心配してくれる君もいるし」
黎深の顔いろがポッと桜色になった
「玖琅もなんだかんだ言って気にかけてくれるし、私は可愛い弟に恵まれていて幸せ者だね」
「玖琅なんか兄上のこと全然何にもわかってないじゃないですか!私の方がずっと可愛いはずです!なんで兄上はいつもあんな…」
「おや、お茶が冷めてしまったね。入れ直そうか?」
「はいっ、飲みます!」
黎深だけは父茶を飲めるのである。
「ー兄上、またこんなふうにお呼ばれしても良いですか?幼い時に春麗のは邸で散々食べさせてもらったので、で…できれば、秀麗のご飯を…」
「…良いけど、秀麗にちゃんと自分で名乗ってからね」
「…兄上!!だって私は、絶対秀麗の中では悪者ですよ!?兄上を追い出して縁まで切って当主に収まった極悪非道の鬼畜叔父と言われるに決まっているじゃないですか!!せっかく…夏に「いい人」って言われたのに。そう言われたらと考えるだけで耐えられません!!」
食卓にぷっつぶして泣きださん勢いである。
(そこまでいいとこしか見せたくないのか)と半ば邵可も呆れた。
まぁそこが、他人はぺんぺん草なのに身内への愛が何百倍も重い紅家の男・紅黎深であるのだが…
立ち直った黎深は改めて表情を引き締めて言った。
「…兄上。私は王家も兄上に甘ったれて迷惑かけまくるハナタレ王も嫌いです。そして秀麗と春麗は愛しくて可愛い大切な姪…あの王がこれ以上、秀麗に近づこうものなら、そしてそのために春麗を蔑ろにするようなら容赦はしません!」
邵可は扉の外の気配に気が付き、視線を上げたが黎深は気づかなかった。