黄金の約束−4
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「風邪なんて何年ぶりかしら」
秀麗は道寺に勉学を習いにきている子供・柳晋を追いかけていて足を滑らせて川に落ちた。
熱を出した秀麗の世話を、静蘭が甲斐甲斐しく見ていた。
(お嬢様が子供の頃を思い出すな…)
まだ自分の心が治りきっていなかった頃。
奥様に言われた”笑顔の時間”
旦那様と、奥様と、お嬢様との幸せな時間…
(そういえば、その頃に春麗お嬢様がいた記憶がほとんどない…”笑顔の時間”はほとんど四人だった…)
静蘭がふと気がついて考え始めたところに、ドタバタと邵可が帰ってきて飛び込んできて、思考はそこで途切れた。
邸中の布団を秀麗にかけて、騒ぐだけ騒いだ後、生姜湯を作るという邵可を止める間も無く、室を出て行ってしまった。
「せ、静蘭…父様の見張り…お願い…」
と頼み込む秀麗の声も虚しく、あっという間に庖厨は大惨事となった。
おりよく見舞いに訪ねてくれた絳攸と楸瑛に食事の支度を頼む。
(そういえば、今日も春麗お嬢様はいない…)
静蘭はちらりと疑問が浮かんだが、あまりの庖厨の大惨事に先ほどと同じく、その考えも一瞬で霧散した。
春麗がいない、ということに気づかなかったのは当の秀麗も、邵可も絳攸も、春麗に鋭い楸瑛も同じであった。
(そのぐらい庖厨の大惨事は酷かった・・・)
静蘭たちが片付けをして調理を始めた頃、秀麗の室の外には、雪の中、二人の男が立っていた。
「ぐっすり寝ているな。顔を真っ赤にして痛々しい」
窓枠にかじりついて中を見る男。
「…なんでお前の姪を訪ねるのに、他家の壁をよじ登って忍び込まねばならんのだ。冬の最中にバカみたいだぞ」
白い息を吐き出しながら、隣の男が冷静に言った。
「仕方ないだろう!私はまだ名乗りをあえるための心の準備ができていないんだ!」
窓枠に齧り付いた男ー紅黎深はくわっと表情を変えて横を向いて怒りまくる。
だが隣の男は庭の方を向いたまま静かに
「お前はな。わたしは違うから、堂々と見舞うことにする」
と言って、火に油を注いだ。
「だめだ!君も一緒に張り付いているんだ。今日に限って仮面を外してきているなんて怪しすぎる」
袖をぐっと掴んで続ける。
「動けない秀麗に不埒なことをしようともくろんでいるに違いない!!!」
ようやく隣の男ー黄鳳珠は黎深を見る。
「・・・お前は兄君の一家のことになると、途方もなくバカだな」
呆れて答えたところを遮るように、中から声がかかった。