黄金の約束−1
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
異常に暑い夏
大嵐になる時期に入ってきた。
その日、外朝周りをしていた春麗は、”これはまずい…秀麗が取り乱す”と思って、大急ぎで戸部に戻ろうとするが、その道すがら、雨風が激しくなり、雷が近くに落ちた
「いやぁぁぁぁぁ!!!せいらーーーーん!!!」
秀麗は取り乱して、近くにいた黄尚書に抱きついて、大泣きする。
”静蘭”と勘違いされて押し倒された形になった黄尚書は、とりあえずこれを落ち着かせねば、と言葉をかけて秀麗の背中を撫でる。
そこへ、”天寿”ー春麗が帰ってきた。
秀麗が夏の嵐と雷に弱いことは知っている。
だが黄尚書に縋り付いている形を見て。心が波立つ。
「…」
どきん、どきん。
なんでこんなに苦しい???
その少し後に戻ってきた景侍郎、と燕青も、その姿を見て固まる。
春麗はあまりの苦しさに、これ以上見ていたくない、と顔をゆがめて走って戸部を出た。
「天寿くん…」
景侍郎が小さくつぶやく。
程なくして、雷がおさまり、正気に戻った秀麗が「すすすすみません!!!」と真っ青になりながら黄尚書から離れる。
「よほど雷が苦手なんだな」とあまり気にした様子もなく、立ち上がった。
景侍郎がそっと黄尚書に近づき、小声で囁く
「あの様子を見ていた天寿くんが、なにも言わずに出て行ってしまいましたよ」
それを聞いた黄尚書も黙って戸部を出て行った。
(どこに行ったんだ)
近くの回廊やら庭院やらを順番に見て回る。
入れ違いになっている可能性もあるが、どこかにいると信じて探す。
だが、なかなか見つけられなかった。
ふと思い立って、後宮の庭院だが、外朝からも見えるところに足を向けてみる。
いつかの月夜に”春麗”を見た場所だった。
あの時と同じように。
外朝に背を向けて春麗ー天寿は座っていた。
よく見ると、自分の身体を自分で抱きしめて、カタカタと震えている
格好は”天寿”だが、醸し出す雰囲気は彼女自身ー女官姿の”紅春麗”のものだ。
(何がそこまで彼女を追い詰めているのか…)
思うより早く、身体が動いた。
ふわり、と後ろから、嫌なら抜けられる程度の力でゆるく抱いて「どうした?」と告げる。
黄色い衣におおわれた。
衣と気配で誰かはわかる。
柔らかさと暖かさで、硬直していた身体と心が溶けていく。
「どうも、しません」
口をついて出た言葉は、なんとも可愛げのないものだった。
”天寿”としては、これでいい。
何も間違っていない
と思うのに。じわじわと涙が浮かんでくる。
秀麗を宥める大きな手を見たら、冷静ではいられなくて室を出た。
自分でもどうしてかはわからない。
でも、探しにきてくれた。
表面張力ギリギリで保っていた涙が、ポロポロとこぼれ落ち、鳳珠の手を濡らした。
鳳珠が腕に力を込めると、春麗の身体がビクッとなる。
くるりと春麗の向きを変えて、指で涙を拭ってもう一度そっと抱きしめるように肩に手を置いた。
春麗の涙が止まるまでー侍童姿の天寿は、黄尚書にふわりと抱かれていた。
その日の夜は、秀麗が黄尚書に泣きついたことを「まだ景侍郎だったらよかったのに〜〜〜〜」と騒いでいる話が主だった。
「でも黄尚書は怒ってなかったんだろう?」
と父様が慰める。
大丈夫、暖かい腕を思い出せれば、心がざわつくことはない。
ただ…どうして侍童姿の天寿がを軽く抱きしめて、泣いているのに腕を貸してくれたのか、考えても答えは出なかった。