はじまりの風−2
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室に戻って琵琶を置き、座り込む。
(わたくし、いったい…)
気がついたら泣いていて、鳳珠様の腕の中であやされていた。
まるで子供の時みたい。
あの時みたいに、自ら泣きついたわけではないけれど。
あのときに見えたものは封印すると決めた。
見ようと思えば、また見られるだろう。
(どうして…)
どうして、涙が出たのか
どうして、泣いたのか
どうして、ゆるく抱かれて頭を撫でられたのか
どうして、名前を聞かれなかったのか・・・
考えても、答えは出ない。
身体の疲れと感情の疲れから、簪を外して髪を解いてゴロリと横になったら、いつの間にかそのまま眠りについていた。
朝起きて、汲み置きの水に手を伸ばそうとしてふと思いつき、髪を上げて簪を挿し、水瓶と桶を持って水屋に行く。
からの桶に水瓶の水を入れ、頭の花を一つとり浮かべてみたら、みるみる変色した。
「ふぅ」
(こっちにも来たか…)
ざっと流して水をかけて花を手巾で覆って取り、懐にしまったところで「何をしている」と背後から声をかけられた。
(ずっとみていたくせに)
ここで男の声がするということは、主上以外にありえない。
振り返り、女官の礼でお辞儀をする。
「今、懐に隠したものを出せ」
(隠したわけじゃないけれど)
「何のことでしょう?」
「手巾に何か包み、しまったであろう。それを出せ」
「手を拭いただけですわ」
「そなたは、紅春麗、であろう。余は紫劉輝だ。それでも出せないか?」
「・・・」
(攻め方が幼いというかなんというか…)
あからさまにため息をついて、手巾ごと出す。
ここで懐に小刀でもいれていたら、ぶすりと刺されてもおかしくない。
それか、腕によほど覚えがあるかのどちらかだ。
「わたくしの部屋にも、仕掛けられておりました」
「そなたは、判別ができるようだな」
「秀麗のところへは最近あまり行けていません。気がついた時は取り除くようにしておりますが、主上が”添い寝”されるようになり始めましたので、これから増えるかと思われます」
言わなくても、わかっているだろうが、一応伝えておく。
「わかった。秀麗の方は余がなんとかする。そなたは、そなたの方と周りを気をつけてほしい。大方それも秀麗を守るために行っているのであろう。余とそなたの考えは一致している。では」
(夜まわりしろってこと?当面、宋太傅との勝負も琵琶もお預けね…)
水瓶をわざと割り、桶に入れて処分して、新しい水瓶と桶をもらいにいく。
ここに毎日仕掛けられると、毎日水瓶割るわけにいかないし…と少し悩む。
室に戻って隠してから、(外朝出仕が遅くなるけれど、まぁいいか)と朝湯に出かけた。