序章
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それからの邵可邸は荒れに荒れた。
最愛の妻を失った邵可は部屋から出て来なくなり、静蘭も秀麗の世話以外の時は部屋に引きこもっていた。
秀麗は泣くばかりで動かない。
たった数日で、使用人たちは金品を持ち一人、また一人と去っていった。
”これではいけない”
迎えに来た黎深の家人に託した手紙が宮城の黎深に届く頃と同じく、”影”からの報告を受けた黎深は仕事を捨てて邵可邸へすっ飛んできた。
門前に春麗が立って待っている
「すまない!春麗!!」
「秀麗がいます。中にはまだ入れません」
「今の状況は?」
「今朝、手紙を託そうと家中くまなく探しましたが、残っているのは静蘭一人です。金目のものは全て持っていかれました。父上は部屋から一歩も出ず、食事もろくにとっていません。静蘭も秀麗の世話をするときだけで、基本的には引きこもっていて見かけません」
「・・・それで春麗、お前はどうしていた?」
「おじさまに連絡を取ろうと家人に何度か頼んだのですが、叔父様から返事がないということは手紙を届けるのにかこつけて出て行ってしまったと思ったので、お迎えが来るのを待っていました。食事は自分で作ったものを少し・・昨晩は父上の部屋の前で琵琶を弾いてみましたが動きはなく…知って、たのに…なんの役にも、立てなく、て…」
ボロボロと涙をこぼして下を向いて泣く春麗に、流石の黎深もなんと言っていいか少し迷った。
「お前のせいではない、いいんだ。泣きたくても泣けなかったのだろう、泣いていい」
そっと抱き締めると、黎深にしがみついてわぁっと泣き始めた。
「私の大切な者たちを傷つけた、ただではおかない」
黎深は怒りを込めて扇を握りしめる。
ピキ、とヒビがはいる音がした。
それから春麗は黎深邸に行く回数を減らし、昼間は家事全般を一人で請負った。
まだ小さい春麗が色々できるのが明らかにおかしいのだが、邵可も静蘭もそこに気づかない。
黎深からは週に3度、食材と一緒に本が届いており、もらった本を夜は自室でこっそり読む、という生活に変わった。
程なくして秀麗が立ち直り、「一緒にやろう」と家のことをやり始めるようになる。
采については黎深邸での教育もあり、春麗が教えながら二人で作った。
”秀麗が静蘭と買い物に行くようになったので食材は当面大丈夫です。そろそろ秀麗たちが気がつきます”
と文をかき、黎深に届けてもらう。
食材の量は半分以下に減ったが、書物は相変わらず届いていた。
ようやく邵可が出仕する生活に戻った夜、春麗は邵可の室を尋ねた。
「明日、宮城へ連れて行ってもらえませんか?」
「どうしてだい?」
「黎深叔父様が送ってくださった本は、あらかた読み終わってしまいました。父様、府庫の管理されているのでしょう?おとなしくしているから、お願いします」
「本当はいけないんだけれどね…今回、君には一番迷惑をかけて辛い思いをさせてしまったから、特別に連れて行こう。もちろん、秀麗たちには内緒だよ」
ここで許可して連れて行ったことを、邵可は後に後悔することになるが、まだ知らない。