はじまりの風−2
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戸部に戻って、書簡を持って吏部へ。
「失礼いたします」と尚書室に足を踏み入れる。
仕事の山を珍しく先に片付けていた黎深が「待ってたよ、天寿」と抱きついてくるところを、さっと顔の前に書翰を突き出して遮る。
「こちらが本日の書翰です。言伝は、”仕事はまとめて片付けるのではなく、毎日少しずつ出せ、馬鹿者!”です。」
黎深の眉間にムッと皺がよる。
「いちいちあんな奴の伝言なんてしなくていいんだよ?」
「僕も黄尚書と同じように思います。いっぺんにやると、みなさんが大変でしょう?でも、今日は先にお仕事を終えてくださっていたので、ご褒美に僕がお茶を淹れます」
というと、いつもの相好で笑み崩れていた。
「そういえば、秀麗に銀の茶器を渡したようですね」
お茶を出しながら話しかける。
「兄上から聞いたか?」
「はい。以前叔父様からいただいた銀の花簪は、後宮にいるときにつけています。そろそろあれで調査し始めようかと思っていますが」
「あれはそういう目的もあるが、まず第一に自分自身を守って欲しくて渡したものだ」
黎深が真剣な顔で言う。
「秀麗を守らなければいけないと思っているだろう?だが、それ以前に、私は春麗自身を大切にして欲しい」
「・・・でもっ」
「でも、じゃない。あれは、まず第一に、自分を守ることに使って欲しい。秀麗はその次だ。彼女は他に守る人がいる。だがお前は一人だ」
「でも”影”の方もいるし!あの簪の紅玉は、”影”への伝達でしょう?」
「そうだ、だが秀麗ほど周りに人が多いわけではない。私は君が生まれた時から君を守ると決めているんだ。君は、君の人生を歩まなくてはいけないよ。わかってくれるね、春麗」
「・・・」
「簪は”天寿”の時は懐に入れておくように、いざとなったら挿しなさい。花がなくなったら持って来てくれ、いつでも足そう。わかったね」
「わかりました、ありがとうございます。黎深叔父様・・・」
美味しいはずのお茶が、春麗には少しだけ苦く感じた。