はじまりの風−2
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月が明るい夜で、帰る前に少し散歩でも、と思い、あてもなく歩く。
ほどなくして、ポロン、と琵琶の音が聞こえてきた。
こんな時間に?と訝しみながら、音に惹かれるように足を向ける。
何か不安気な、頼りない音で、何かの曲になっているわけでもない。
例えて言わば、櫂のない船で揺られて流されているような。
近づけば近づくほどに、音の正体が気になり、そのまま足を進めた。
視界が開けた庭院に、薄紅の衣をきた女性がいた。
「・・・」
しばらく、呆然と見つめる。
月明かりに照らされた後ろ姿はまるで月から降りてきたようで、思わず息を呑む。
程なくして、音を奏でながら、ゆっくりと振り向いた。
「!!!」
振り返った姿は、まさに天女か月の精のように美しかった。
互いに、じっと見つめ合う。
だがしばらくして、何も言わずにゆっくりと巻き戻すかのように振り返っていた体を正面に戻していく。
そして、月の精はすっと立ち上がり、何も言わずに去ろうと足を運び出した。
「!!」
気がついた時には、彼女の右手首を掴んでいた。
白くて細い手首。
再び、ゆっくりと振り返る
「名を・・・尋ねてもいいだろうか?」
口をついてでた言葉はすごくあっさりとしたもので。
じっと見つめられる瞳に自分が映る。
「!」
仮面を外していたことに初めて気がついたが、いつものように袖で顔を隠すことをしたくなかった。
見つめ返して、しばらく待つ。
やがて、ふるふると顔をふり、少し身体を引いて掴まれた手を離し、優雅に一礼して去っていった。
シャラン、という花簪の音だけを残して。
姿が見えなくなっても、その方向をしばし呆然と見つめていた。