はじまりの風−2
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クタクタの状態で春麗は後宮の室に戻った。
この後、女官姿で秀麗の前に出るには辛いが、いつまでも侍童の格好でいるわけにもいかず、体に鞭打つように立ち上がり薄紅の衣に着替え、黎深から贈られた簪を挿して、もう一度室を出て、月を眺めながら話す秀麗と珠翠の室へ行く。
「春麗!」
「来るのが遅くなったわ」
「ねぇ珠翠、春麗は女官も仕事に入っているはずなのに、一ヶ月間、全然昼間に会わないのよ、あなた、知ってる?」
秀麗の後ろで片目をつぶっている春麗
「え、え。春麗様にはいろいろと裏のことをお願いしていますので…」
(裏のことってなによ!)
珠翠の微妙な嘘にガクッと来るが、これで押し通すしかない。
「そういうことよ」
「まぁ、春麗が忙しいなら仕方ないけど。時間が作れるなら、勉強会も出たらいいのに。」
「私はいいわ」
(出たら絳攸兄様に嫌がられるしね)
秀麗と珠翠は、主上が勉強を頑張っていること、見違えるようになったことを二人で楽しそうに話している。
”お役目”をしっかり果たしている秀麗に少し心が苦しくなってきた気がして、「また明日」といって、さっさと戻ることにした。
なんとなく落ち着かなくて琵琶を持ってまた出る。
比較的明るい月明かりを頼りに、外朝に近い庭院の椅子に外朝を背に向け、構える。
ここに来たのは霄大師が言った伏せた仕事…三師の相手が中心かと思っていたけれど、そんなにすることもなく、ばったり出会った景侍郎に言われて、いつの間にか鳳珠様のいる戸部での手伝いが一番比重の大きな仕事になったのよね…
紅家の中心になるのは秀麗だと思って、それをあらゆる面で支えられるようにならねばと思っていたけれど、戸部のお手伝いをすればするほど、楽しくなってきている気がして、複雑な気持ちになっていく。
ここ一月ほどのことを思い出しながら、曲らしい曲を弾く気にならず、なんとなく思いつく音を奏でていく
ぽろん、ぽろん…
ゆらゆらとしたような、不安気な音が重なる
私の人生の先はどうなっているのか…
自分の人生は見たくないと小さい頃に強く願ったせいか、春麗は自分だけは見ようとしても見れなくなっていた。
不安から見ておきたい、と思う時がくるなんて…
ポロン、ポロロン…
ふと、背後に人の気配を感じて、弾きながらゆっくりと後ろを振り返った。