紫闇の玉座-6
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夜ー黄鳳珠邸
夜の庭院に灯りを多く置き、邸の主人と夫人は四阿で夜桜と月見酒を楽しんでいた。
「やっと、終わったな」
「えぇ…終わりましたね」
隣に座って酌をする春麗が酒盃を机に置くと、鳳珠は春麗を抱き寄せた。
「あの時…五丞原で、お前を失わなくてよかった」
「本当は…成り行きでは、随分昔に、宋太傅に作ってもらった刀を出すつもりだったんです。でも、あれだけ次々と彩七家が乗り込んできた時点で、決まった、と思いまして」
「黄家当主が悠舜へ託したという文を見せていなかったな」
鳳珠は懐から出して、春麗に渡した。
促されて、開いて読む。
「随分と…ありがたいことですわ」
「それだけのことをお前がした、ということだ。”平和な世の方が持続可能な商売ができる”、か…もっともだな。私があれだけ説得したにも関わらず最終決定しなかったのを、お前と李絳攸がやったということだ」
「兄様はともかく…わたくしは、鳳珠様のお文で、ある程度決められていたと思いますわ。ただ、当主という立場から鳳珠様からの文で決めた、となるとまずいかと思っていたので…北に向かったという兄様の人柄と才を保証します、ということと、わたくしの鳳珠様への想いと共に、拙い意見をお伝えしたまでですわ」
鳳珠は春麗の頭をそっと撫でた。
「感謝している…思えば今回のことだけでなく、私は春麗と一緒にいるようになって、人生がさらに充実しただけでなく、彩り豊かになったと思う」
「鳳珠様…」
鳳珠は懐から四角い箱を出して、春麗に渡した。
「婚姻の手続きをしてからちょうど一年だ。私からの贈り物だ、受け取ってほしい」
「まあ、ありがとうございます。開けても?」
鳳珠が机の行灯を手元に寄せている間に、春麗は箱を開けた。
紅玉で掘られた薔薇の花を加えた、鳳凰の羽の下に黄玉の玉簾が施された簪だった。
「これは…」
「いささか自己顕示欲が強すぎるかと思ったが…」
「いえ、こんな豪華なものを…ありがとうございます。嬉しいです。挿していただいても?」
鳳珠に差し出し、横を向くと、いつもの薔薇の簪が外され、代わりに春麗の髪にスッと鳳凰の簪が挿された。
シャラン、と黄玉が揺れる音が耳元でした。
「よく似合っている」
「後で鏡で見てみますわ。ありがとうございます、鳳珠様…あの、実は、わたくしからも…」
春麗も懐から小さな箱を出し、鳳珠に渡した。
開けると、少し太めの、鳳凰が彫られた腕輪だった。羽根に小さい黄玉がいくつか埋め込まれ、簪と同じように紅玉の薔薇の花を加えており、そこが留め具になっていた。
「鳳珠様はあまり装飾品はつけられないですけれど、これなら付けていただけるかと思いまして」
「どうやら、私たちは考えることが同じようだな。職人は双方の要望を聞いた上で、揃えてきたということか」
「えぇ、きっとそうでしょうね。実は、わたくしのも、よく見るとお揃い、という感じで」
春麗はもう一つ箱を取り出し、開けて見せる。
少し細めの、鳳凰が透かし彫りされた腕輪。紅玉の薔薇が留め具になっているところは同じで、透かし彫りの羽根にいくつか小さい黄玉を散らしていた。
「随分と可愛らしいな。だが、よく見ると揃い、というのも悪くない。ありがとう、春麗」
鳳珠は腕輪をはめまぶしそうにそれを眺めてから、そっと春麗の頬を撫でて、口付けた。
春の暖かい風に乗って、桜の花びらがさぁっと二人に降りかかった。
終わり