黄金の約束−1
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次の日も、天寿は吏部に寄って、相変わらず”朝お茶”してから、戸部に出仕した。
秀麗と燕青は、書翰周りですでにいなかった。
「これを写しておいてくれ。終わったら声をかけろ」
尚書の指示で、もらった書簡を机で広げる。
??
ものすごくわかりにくい。
写せ、と言われたら写せばいいのだろうが、これを写して配ったところで、戸部官以外が理解できるとも思えない。
(さて…)
料紙を一枚とり、枠を書いて最初のページの数字を整理しながら入れる。
「景侍郎、黄尚書からこの書簡の写しを頼まれたのですけれど…わかりにくくて。この内容はこういうことでよろしいでしょうか?」
渡して、反応をみる。
こんなことしなくて写せばいい、と言われればそれに従うまでだ。
でもただでさえお金のこととなると拒否反応がある文官、武官には、いかにわかりやすく伝えるかがキモだ、と思って整理してみただけだ。
景侍郎は、渡された料紙と書簡を見比べる。
何も言わずに徐にダッ!と走って尚書室に飛び込んだ。
「あれ?行っちゃった…」
仕方がないので、そのまま写すときに必要な料紙を机の上に用意しながら待つことにした。
尚書室の扉をパン!と開けてからすぐ閉めて、
「ほ、鳳珠!」と叫ぶ
「なんだ、珍しいな柚梨、騒々しい」
筆を止めることなくチラリと見て嗜める
「これ!これ見てください…」
「この書簡、天寿に渡した仕事だが?」
景侍郎は料紙を一枚渡す
黄尚書が無言で受け取って目を落とし、見開いた
「鳳珠、あなたは写してくれ、と頼みましたよね?天寿くん、中身を見て、わかりにくいですがこういうことでいいですか?って聞いてきたんです…」
黄尚書はそのまま書簡と料紙を見比べる
「明らかにこちらのほうがわかりやすいな。そんなに難しいことじゃないのに、なんで誰も思いつかなかったのか…」
景侍郎も頷く
「えぇ。あの子は一体…今回から、この内容は天寿くんの案を採用しませんか?その方が、数字が苦手な他の部門の方にもわかりやすいと思います」
「あぁ」
「せっかくですから、鳳珠から言ってあげてくださいね」
と言って、答えを聞く前に扉から顔を出し「天寿くん、ちょっと」と呼びかける。
トコトコと、呼ばれたからきましたが何か?みたいなぽやんとした表情で尚書室に入った天寿を、何も言わずにわしゃわしゃと尚書が頭を撫でる。
「天寿、よくこれに気がついたな。今まで誰も何も言わなかったのが不思議なぐらいだ」
「ほんとですよ!天寿くんは施政官並みのお仕事ができますね!」
尊敬する二人から褒められて、ちょっとだけはにかむ。
「僕は数字が苦手なので、どうやったらわかりやすいかなと思っただけです。差し出がましいことをしてすみません」
自分の理解のために作ったものなので、素直に謝っておく。
「いや、ここに気がついたことは、すごいですよ!」
景侍郎は手放しで褒めてくれる。
とっても気恥ずかしい
「この関係の資料は、今後これで行こう。置き換えがあるから時間がかかるかもしれないが天寿がやってくれ。できるな?」
「はい!間違いがあるといけないので、確認はお願いしてもいいですか?」
「それは私がやりますよ。天寿くん、大変だと思いますが、よろしくお願いしますね」
黄尚書に認められて、景侍郎が見てくださるなら安心、と思ってしっかり頷いた。
秀麗と燕青が書簡配りから帰ってきたら、天寿は机に向かって書き物をしていた。
どことなく嬉しそうに見えるその様子を、秀麗がじっと見つめる。
(春麗は、机案仕事をやっているんだ)
秀麗の顔に影がさしたのを、燕青は素早く認める。
そっと寄ってきて、小声で
「どうやら天寿は春に戸部にいたというから、慣れているんだろうよ、気にするな」
と声をかけた。
「ん。そうね、私は私で頑張るだけね」
と言って、秀麗は軽く首を振った後、次の仕事の指示を仰いだ。