紫闇の玉座−4
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午後になってひと段落した頃、鳳珠から街で飲むから来るように、と連絡があり、春麗は支度をして出かけた。
家人を連れて、指定された店へ行く。
通されたのは、貴陽では割と豪奢な料亭の一室だった。
「ヨォ、嫁」
「こんにちは、飛翔様。あら鳳珠様、少しお顔が赤くなってましてよ?」
春麗は鳳珠の横に座りながら、手元にあった水を入れて渡す。
「酒選びは毎年のことだが、昼間の酒は回るな…今年は、これにした。持ち込ませてもらったから味見してみるといい」
鳳珠から渡された小さな酒器に口をつける。
少し辛めだが、後口のいいすっきりとした味だった。
「美味しいですわ。こちらのお店も素敵ですね、こういうところに来たのは初めてです…ちょっと緊張しますわ」
「そうか…店主から、いつもと選ぶ味が違いますね、と言われたが…」
「だいたいお前、これは甘すぎて春麗が好きじゃない、とか基準がヨメになってたじゃねか」
「まぁ…」
春麗は少し赤くなってクスクス笑い、鳳珠は気まずそうに横を向いた。
「ま、たまにはこういうのも悪くないだろ。二人とも仕事の鬼だからなぁ、仮に鳳珠が結婚しても仕事仕事ってーのは変わらないと思っていたが、まさか自分そっくりの仕事人のヨメをもらうとは思いもしなかったぜ」
「そう、ですか…?でもわたくしのお仕事の基準は戸部ですから…」
「あの黎深の姪だし、府庫の邵可殿の娘だから、ヨメも嬢ちゃんも、もっと何にもしないかと思っていたら、二人ともとんでもないもんな…それにしても邵可殿には騙されたよなぁ。当主になった途端、別人だもんな」
「それは、わたくしも驚きましたわ。父様には娘たちに見せない、別の顔がいくつもあるのは薄々感じてましたけど…」
春麗は心の中で数える。
自分達の父親の顔
母様だけに見せていた夫の顔
母様いわくの昼行灯な様子
府庫の主人
紅家当主で見せた政治家の顔
それから…
(黒狼…)
鳳珠が言い淀んでいた黄家当主も真っ青な、非常な一面。
「邵可殿、元気なのかな?黎深はどうしてる?」
飛翔の声で現実に引き戻された。
「邵可殿は…大丈夫だろう。彼の方と一緒だ。黎深は知らん」
「そうですね…叔父様は…志美様にお尻を叩いてもらったから、そろそろ動き始めているんじゃないかしら?でもそのお話はここではしない方がいいですよね?どこに耳があるかわかりませんもの」
春麗は飛翔の大きな盃…というよりもはや器と、鳳珠の小さな盃にそれぞれお酒をたしながら言った。
「確かにな…」
「お前ら、いつもそうなのか?またそうやって仕事の話して!酒は楽しく飲むもんだ!」
「あら、別につまらなくはありませんわよ?こうやってお話しすると、お考えがよくわかりますし」
「なんだそれ?新婚だろ?もうちょっと、こう、イチャイチャするとかないのかよ!?」
春麗はボン!と真っ赤になった。
「え?イチャイ・・・」
「そんなもの、普段からしている。心配するな。だが今は見せん。かわいい春麗を見られるのは私だけの特権だからな」
すっと髪を撫でると赤くなっている春麗を見て、鳳珠は喉の奥でくつくつと笑った。
「あー、わーったよ。言った俺がバカだったよ。お前、そんなことに真面目に答えなくていーんだよ。ったく。ヨメには短い時間で悪かったが、場所変えようぜ?鳳珠んとこでいいよな?そのつもりでさっき大量の酒を買ったんだ」
ゲラゲラ笑いながら手元にあった酒瓶を持ってから表情を引き締めた飛翔に、二人は軽く微笑んで頷いた。