紫闇の玉座−4
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「春麗も、一緒に行くかと思ったのに」
年末最後の公休日。
鳳珠が少し不貞腐れた表情でぼそっと言った。
「今日は新年に向けて、采を教えていただくお約束をしてしまっていたんです、ごめんなさい」
「そうか…では、新年を楽しみにしておこう。早めに帰るつもりだが、今年は飛翔がついてくるというのでな…」
「であれば、あの、もしよろしければ…」
「なんだ?」
「飛翔様がお酒を選ばれた後、そのままお帰りになるとも思えませんので、いらしていただいてはいかがでしょうか?」
「…わかった。聞いてみる。来ると言っても、そのままどこか店で飲むと言っても連絡を入れる。外で飲むようだったら場所を伝えるから、用が済んだらきてくれるか?」
春麗の髪をそっと撫でて確認する。
「はい…行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
鳳珠は名残惜しそうに髪から指をはなし、春麗の腰を抱く。
「行ってくる」
くるりと身を翻して俥に乗り込むのを、春麗は微笑んで見送った。
鳳珠の俥が出ていってから、向きを変えて少し離れたところに控えていた瑞蘭を見た。
「あちらにお通ししてますよ、早めに決めて、采もがんばりませんとね。御館様のあの名残惜しそうなご様子では、おそらくお酒選びもさっさと済まされると思いますわ」
「飛翔様がご一緒だからどうかしら?」
話しながら普段とは違う室へ足を踏み入れる。
そこには、家令と瑞蘭が手配した、黄家の取引先である職人が来ていた。
意図を伝えて職人と相談しながら、意匠を決めていく。
「せっかくですから、奥方様らしさを入れられた方がいいと思いますよ」
職人の提案にしばし考えるが、「わたくしらしさ、って何…?」と春麗は頭を抱えた。
「そうですね、最近よくあるのが、その方を表す花や動物、印などを彫り込むとか、あとは、互いの好きな色石を入れるとか、ですかね」
「花、ですか…」
(うーん、鳳珠様もわたくしも下賜の花はないし…何がいいかしら?)
「それでしたら、薔薇の花になさってはいかがでしょう?ご結婚前でしたけれど、御館様が贈られたいつもつけていらっしゃるその簪も薔薇ですし」
瑞蘭が春麗の髪に刺して合る簪を指差し、助け舟を出した。
「それも私が作らせていただいたものです。こちらの御館様から、この手のものを頼まれたのは初めてでしたし、随分と真剣に悩まれてご自身で意匠を考えていらしたので、よく覚えています」
「そう、なのですか?」
(鳳珠様が意匠を…?)
「図案で描いていただいた絵が随分と細かくて、再現するのが大変でした」
職人から笑いながら思い出話を聞く。
「きっと、いい方に差し上げるんだろうな、と思って、心を込めて作らせていただきましたが、奥方様になられたとのことで私も嬉しく思います。”恋が成就する簪”として売り出したいぐらいですね、ハハハ」
「この意匠は姫様専用だからダメですよ?でも、御館様にご相談したら、少し変えて作ってくださるかもしれませんね。今回のができあがって、姫様がお渡しした後にでも、私から相談してみます」
「ちょっと瑞蘭、姫様って…」
「あ、申し訳ございません。つい当時の気持ちになってしまって…」
瑞蘭は笑いながら、「まぁ、家人とはあいかわらず姫様って呼んでしまうんですけどね」と付け加えた。
春麗は黙ってなんとも苦い表情をしていた。