紫闇の玉座−4
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(絳攸兄様が北の三州に向かっていらっしゃるとなると、鍵は兄様にある…白家と黒家は流石に面識もないし無理よね。となると、やはり黄家…)
ぱちゃぱちゃとお湯に指で地図を書きながら、それぞれを指差してぶつぶつと考えを口から出していたところ、外から声がかった。
「春麗様、そろそろ上がられないとのぼせますよ?」
「あらやだ、そんなに経ってました?」
「えぇ。そろそろ御館様が心配して様子を見にこられるだろうぐらいには」
最近、お湯の中で考え事をする癖がついたのか、すっかり長風呂になった春麗だが、長く入りすぎて立ちくらみを起こしてから、鳳珠に言われて瑞蘭が切り上げるよう促すようになった。
「あの…後で文を書くので、出していただきたいのです」
髪を乾かしてもらいながら、瑞蘭に頼む。
「かしこまりました。お室の前に控えているようにしますから、書き上がったらお声がけくださいね」
他の侍女たちがいるので、瑞蘭は多くは聞かずにいてくれる。
侍女たちを疑っているわけではないが、いろいろな意味で難しい立場になってきていることもあり、それが今の春麗にとってはありがたかった。
自分の室に戻ってから、湯船の中で推敲した内容を文に書き上げる。
室の扉を開けると、話の通り瑞蘭が控えていた。
「お茶をお持ちしましたわ。遅い時間なので、菊花茶に。お疲れでしょうから、蜂蜜を入れてきました」
「いつもありがとう。至れり尽くせりで申し訳ないわ」
笑いながら室内に促す。
瑞蘭がお茶を淹れている間に、先ほどの文を取り出す。
「こちらを黄州のご実家にお願いします。詳しくは中に書いていますが、こちらは黄家当主宛ですわ。渡すかどうかは、お義父様の判断にお任せします、と書いておいたので、分かるように印をつけておきます」
「黄家当主にですか?…わかりました」
「なるべく早く届くといいのだけれど」
「大丈夫ですよ、黄家が使っている早馬の便がありますから、そちらにすぐ渡しておきます。急ぎの時に使うものですが、最近は御館様への文の受け渡しでしょっちゅう往復していますから、夜明けと共に出すようにしておきます」
そんなのがあるのね、と甘いお茶に口をつけて、ほぅ、と一息ついた。
「そろそろ御館様の湯浴みが終わられる頃ですから、私は失礼しますね。これを手配して参ります」
と瑞蘭が室を出ていった。
(果たして、この文が吉と出るか凶と出るか…)
春麗は小さくため息をついて、茶器を両手で握りしめた。