紫闇の玉座−3
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その後、リオウと別れた劉輝は、後宮を抜けて厩にたどり着いたものの、最後に立ちはだかった男を見て、全身から冷や汗が流れた。
「…孫陵王」
兵部尚書孫陵王の左手の下には、地面に垂直に立てるようにして剣が一口、鞘のまま収まっていた。
ふーっと空いている右手で煙管を燻らせる。なのにどこにも隙がなかった。どこにも。
「陛下、どこに行くおつもりですかね?ご心配なさいますな。この程度ならすぐに収めます。お戻りください」
劉輝に楸瑛、十三姫が追いついた。
ふっと孫陵王の手元の剣を見て、ぎょっとした。
「まさか行方不明の天下五剣の筆頭大業物”黒鬼切”!?それ、確か」
「そう。黒門孫家の”剣聖”が受け継ぐ剣だ」
楸瑛の言葉を、いつの間にか後ろから追いついてきた春麗が引き継いだ。
「本人は平凡な一般庶民とかおっしゃってますけどね」
クスクス笑いながら言う。
「ちげーよ。ってこの前言っただろ、山に埋めても谷に捨てても地蔵にやっても、なんでか戻ってくるんだよ!背後霊だよ。俺だってこんな真っ黒い剣とはオサラバしてーわ。あっという間に色々バレて超迷惑」
「バレるのがお嫌だったのね…」
ぼそっとつぶやいた春麗に対して、鳳珠は声を出さずに笑い、十三姫はブチギレた。
「谷とかに捨ててんじゃねーわよ天下の名剣を!そんなヨダレ出そうなヤバイ剣ぶら下げてて、どこが平々凡々な一般庶民よ!っていうか、天下の”剣聖”が文官してんじゃねーわよ!」
「差別!そりゃ差別だぞお嬢ちゃん!”剣聖”が文官やってて何が悪い」
「うるせーのよ。女が文官やる時、散々文句言った輩が、自分の時は差別を主張すんのか!ここにいる紅侍郎たちが国試を受ける時、受けた後、あんたたちが何してたか、よく考えて言いなさいよ!」
雷光のような十三姫の本物の怒りは、その場を落雷の如く貫き、孫陵王に確かに届いた。
「…そっか。あんたが十三姫だな。確かにずんと器量よしだなぁ。迅もいい女を育てた者じゃねぇか。楸瑛の妹にしとくのは惜しいぜ…だが、ここは通せんな」
孫陵王は闇に光る目で劉輝を見つめた。百獣の王の如く、その場に釘付けになる。
雪が、さらにこんこんと降り始めていた。
「もうすぐ、綺麗に、穏便に、終わりになるって、この時に。ここで逃すわけにはいかん。」
ぴく、と劉輝の顎先が揺れた。
今、何かが、ひどく癇に障った。
…綺麗に?穏便に?