紫闇の玉座−2
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悠舜を置いて室をでた凜は、その足で工部に戻るのではなく戸部に向かった。
「春麗殿はいるか?」
戸部官は不思議そうな表情をしながら、春麗を呼んだ。
凜は、先ほど、悠舜が殺されかけて池に落ちた話をした時より、少し翳りのある顔で立っていた。
「よろしければ、中に…」
「いや、二人で少し話がしたい…ちょっとだけ出てもらっても構わないか?」
頷いて、戸部を出る。
少し歩いた回廊で立ち止まり、凜は春麗を見た。
「お顔の色がよろしくないですが…悠舜様はお怪我など大丈夫でしたか?」
春麗は少し心配そうに尋ねた。
「あぁ、大丈夫だったよ…それよりも…」
凜は少し間を置いてから、再度口を開いた
「私はね…旦那様の元を離れることにしたよ」
「凜姫…!」
春麗は声こそは驚いていたが、表情は変わらなかった
「あまり…驚いていないね。薄々予想していた、って表情をしている」
軽く自重気味に笑って、凜は続けた。
「旦那様は、旦那様の人生に私を連れて行けないという。”あなたと手を繋いでいられたら、どこまでもご一緒する覚悟でしたのに”って言ったんだけどね。でも、もう、一緒には行けない」
「…」
「私は、旦那様の望み通り、旦那様の心から、人生から出ていくことにしたよ」
春麗は微かに首を傾げた。
何かとても…一言では言い難い違和感があったのだ
それには気づかず、凛は続けた。
「引き止めて、くれると思ったんだけどね…心のどこかで期待していたんだけれど…気づかなかったみたいだ。まぁ、何がおこるかわからない時に、と思って、隠していたのは私なんだが…」
そう言ってそっと手をお腹に当てた凜の仕草に、はっと顔を上げる。
しばらく凜を見つめた後、春麗は慎重に口を開いた。
「それを、どうして、わたくしに…?」
「さぁ…どうしてだろうね?工部の仕事は続けるし、顔を合わすこともあるだろうと思ったから…悠舜殿を抜きにしても、春麗姫とは話ができると思ったから、と言ったら、納得するかい?この先、何があるかわからないが、いい…友人でいて欲しいと思った」
「わかりましたわ、凜姫。わたくしもそう思います。お話しくださってありがとうございます。」
もちろん”納得”などしていないが…この場は収める。
何かの布石かもしれない、と凜の表情をよく見たが、すぐにはわからなかった。
そして、仮にこれが建前上だとしても、自分が鳳珠の元を離れられるか、と考えてみたが、無理だ、と思った。
ましてや、凜姫のあの身体で…
「もし、悠舜様にお会いしても…”そのこと”はお話ししないでおきますわ」
その言葉に、凜はふっと笑って、「ありがとう」と言って去っていった。