紫闇の玉座−2
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
駆け寄ったものの、動かない羽羽の様子を、鳳珠と春麗は呆然とみる。
人を呼んだ方がいいことは間違いなかったが、果たしてそれでいいのかーーすぐに判断がつかなかったのだ。
ややあって、やはり誰か呼ぼうと鳳珠が腰を浮かしたときに、嗚咽が聞こえた。
その声に反応したのは羽羽だった。
「…リオウ殿…でござりますか?」
「羽羽!」
全然違う方向を見た羽羽に、リオウも羽羽の視力が失われたことに気づいた。
「あんな大術を使うからだ!いますぐ最高位の”癒し手”を寄越させる。すぐ来るから」
羽羽の体を抱きしめて、リオウは震えた。
だが、どうにもできないことを、羽羽もリオウもわかっていた
(あんな大術?)
春麗はリオウの言葉が引っかかって、はてと首を傾げる。
「もしかして、羽羽様、あの紅州の雨は…」
その声にリオウがはっと顔を上げた
鳳珠と春麗がその場にいたことに、初めて気がついたようだった。
「紅…春麗…」
「リオウ殿が仰った、”大術”でもしや、と…羽羽様、紅風に合わせた大雨に関しては紅州の蝗害の様子を見るときに確認しましたが、本日はそのことを伺おうと思ってきたわけではありません」
「あぁ、その話は出ていない。春麗が…羽羽殿のお加減が良くないから元気づけのためにお見舞いを、ということで来ただけだ。この時間になってしまったのは、仕事が終わらず…申し訳ない」
なんか言い訳のようだ、と思いながら、灯りの消えた室でもわかる訝しげなリオウの視線に答えるために、鳳珠は口を開いた。
「春麗殿のいう通りじゃよ…藍州から動かした雨で、蝗害は、止められたじゃろうて」
弱々しい声で羽羽は言ってから
「もう一つ、やることが残っておりまする…」
とリオウの腕からズルズルと抜け出す。
ゆさゆさと、大地が揺れていた。
「王家と縹家は硬貨の裏表のような存在であると同様に、縹家と貴陽もまた同じじゃ…」
言葉は、鳳珠と春麗に言い聞かせたいのか、はたまたリオウへ向けてのものなのかはわからない。
ずる、ずると小さな体を這わせて、仙具があるところまで羽羽は移動した。
「わたくししか、居らぬ…」
手探りで目当ての仙具をつかむ。
清められた短刀の鞘を、なんとか抜き払う。
「羽羽?羽羽…何、なに、を…?」
羽羽の見えない目に浮かぶのは瑠花ではなくリオウだった。
劉輝や、若い仙洞官の顔だった。
そして、なんの縁かここに居る黄尚書と紅春麗…
自分のために少しでも長く生きたいと思っていた気持ちは、今は違った。
つなげて残したい、彼らの手に渡してやりたいものがある。
「羽羽殿?」
「羽羽様!」
グッと自分の頸動脈に刃を当てる。
リオウの悲鳴と
「羽羽」
と鮮烈な冷たい声が落ちた。