紫闇の玉座−2
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遅くなってから仙洞省についた。
「羽羽殿」
鳳珠の声に、羽羽はキョロキョロとした。
その様子に、声をかけた鳳珠と春麗ははっと顔を見合わせ、春麗が「羽羽様」と声をかけながら走り寄って手を取る。
瑠花の最期を感じ、そこに想いを馳せていた羽羽は、ただでさえ反応が遅れた。
「あぁ、春麗殿と…その声は、黄尚書…?」
「羽羽殿、こちらへ…」
鳳珠が抱えてゆっくりと長椅子へ運び、羽羽を座らせる。
低い机案に置いてあるいくつかの燭台に灯りを移して、だいぶ周りは明るくなった。
だが、まだキョロキョロしている様子を見て、鳳珠は仮面の下の表情を曇らせた。
「羽羽殿、もしや、お目が…」
鳳珠の問いに、「情けないことじゃ」と小さく羽羽はつぶやいた。
春麗は「勝手に失礼しますね」と言いながら、急いで茶を入れて、羽羽の手に茶器を握らせる。
「ありがとう、春麗殿」
茶を一口飲んでからふぅ、と小さく息をついてから、茶器を春麗に差し出した。
「もしかしたら、これからのことを正確に判断してくださるのは、仙洞官たちではなく、あなたたちかもしれない…だからお二人には話しておきまする…」
と言って、羽羽はもそりとなけなしの力を出して姿勢を正した。
「わたくしの命は、まもなくです…ですがもう一仕事残っています。縹家に関わることなので、詳しくは言えませんが…わたくしの、最後の、仕事です…」
羽羽の言葉に、その先を想像した二人は黙る。
少しの沈黙の後、羽羽はー半身を鉈で真っ二つにもぎ取られたような感覚がした。
全身が、氷のように冷たくなった。
羽羽にはその瞬間がわかった。
首が落ちる音さえ、耳元で聞こえた気がした。
その時、何かをつぶやいたかもしれない。だがそれは自分でも小さな呻きにしかならなかった。
その声とともに、地面が揺れ、室を照らしていたはずの灯りが、全て消えた。
「羽羽様!」
呻いて長椅子から転げ落ちたーー鳳珠には何かに慌てて転げ降りた、と見えたーー羽羽の様子を見て、春麗が小さく叫んだが、それは羽羽の耳には届かなかった。