紫闇の玉座−1
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「それーー玄圃梨を見て懐かしい、と言って、全部食った。枝に見えるけど食ってみろよ、甘くてうまいぜ」
飛翔が視線で促したので、春麗は言われた通り、口に一つ入れてみる。
甘くていい香りが口の中に広がって自然と笑みが出たのを、飛翔は満足そうに見て頷いた。
春麗は一つとって鳳珠に渡すと、同じように口にした。
「過去のことを口にしない悠舜が、”懐かしい”と言ったんだ。よほど参っているな。最も、門下省長官が不在で仕事の量は倍増しているだけでなく、高官たちがひっきりなしに悠舜詣でをしているし、王様はあんなんだし、時間がいくらあっても足りない状態だな」
少し間を置いてから、続けた。
「陽玉が碧州に向かう時に悠舜に言われて内緒で作っていた馬車も、旺季殿が作らせていたという貯蔵庫も、南栴檀作りだそうだ。飛蝗が寄ってこないらしい。旺季殿は紅州のこともうまくやるだろうよ」
鳳珠も、そして春麗もはっと顔を上げて、飛翔を見つめる。
「俺は前に…最後まで悠舜の味方でいる、と言ったんだ。それは今でも変わらない。来俊臣みたいに理論で全部ぶった切って残ったのを選ぶ真似は出来ねぇ。旺季の信者みてーに、誰かを頭から信じ切るのも柄じゃねぇ。俺は俺の信じるものを選ぶ。その時々でなるべく大事なもんを選ぼうとは思っているが、根っこに勘とか情とかがあるのは変えられねぇ。例えば、黎深と楊修を選べって言われたら、俺は今でも黎深をとる。あいつがバカでろくでなしのお子様だが、死ぬまで俺のダチだ。あいつがどっかで野垂れ死にしかけてたら、飛んで助けに行く。それで失職しても、しょうがねぇ」
飛翔がグッと酒を煽る。
春麗は黙って注ぎ足し、鳳珠と自分の茶器にも足したのをみて、飛翔が少し嬉しそうに話を続ける。
「ダメだろ、それ。無責任だろ。黎深のバカなんて見捨てて尚書してりゃ百倍甲斐のあることができる。でもやっぱり行くと思うわ。他の誰がなんと言おうと、それが俺だ。俺は目の前で一番大事だと思ったものを選ぶ。それがどんなバカな選択でも」
真っ直ぐに鳳珠を見る。
「俺は悠舜の味方だ。俺はあのバカ王がバカだと思っているし、山ほどやっちまっていて非難轟々の袋叩きで氷の針山でも歩いている方がましな環境だが、今は全部の朝議に出続けている。俯いてでも針山の玉座に座り続けている。俺はーそのことが、その奥にもっと大事なモンがあると思ったんだ。バカだが王は、悠舜の盾になってやれる。批判を一人で受けている分、悠舜が自由に動けている」
飛翔は悠舜に話したのと同じ話を、来俊臣はともかく鳳珠にはしておかないといけない、と思って来た。
それは、自分、俊臣、鳳珠が同じ尚書という立場である以上、同じ責任の下できちんと役割を果たし、いつかはーーそれぞれ立場を明確にしないといけない時がやってくると考えているからだ。
「後宮に逃げた三年前、あいつは昏君だった。だが今は違う…毎日ポツンと座っている姿を見て、仕方ねぇ、と思ったんだ。俺は最後まで付き合うなら、旺季殿よりこいつにする、って。三年前、俺たちはもう尚書だった。前に悠舜に言われた通り、俺たちは引きこもりの昏君に見切りをつけて、ずっと放置していたんだ。今回の一件は、過去の俺らーー朝廷百官のツケでもあるんだ。だから俺はあのハナタレに、最後まで付き合ってやる」