紫闇の玉座−1
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あまり話題になっていなかったが、藍州の長雨は相当酷かった。
水害のみならず、塩害もひどくなっている。
戸部で資料をまとめながら、春麗はため息をついた。
「この分だと…塩が本当にまずいですね」
「食糧も雨で半分はダメみたいですよ」
「文仲が救援要請を出してこない、ということはギリギリでなんとかやっているということだろうな…」
戸部長官たちはそれぞれの思いを言葉にしたことで、重い空気が支配した。
「碧州の方はどうだ?」
「羽林軍に行って聞いてきました。黒大将軍がついていっているので、大きな混乱なくうまく統括できているようです。口数の少ない方ですが、かえってそれがいいのかもしれませんわね。旺長官の方は、阜武官など若手の精鋭がついていっているようです。そしてなぜか…静蘭もついていったとか。父様にも言わずに行ったようです」
「茈武官がですか?そうすると尚書令の護衛はどうなっているんでしょう?」
柚梨が心配そうな声を出す。
「さぁ…羽林軍から交代で出しているみたいですが、静蘭並の腕があるかというと、少し不安ですね…静蘭は剣の腕に関してはおそらく主上より上でしょうから」
「春麗ちゃん、みたことあるんですか?」
「実は…藍将軍が宮廷を辞すときに、主上と手合わせをしたんです。宋太傅に呼ばれていったら、その場で…ただ主上は本気でしたけど、藍将軍は本気になりきれていませんでしたね。それで負けた形をとって、辞した、と。おそらく、”藍楸瑛殿”が本気を出したら、主上より上でしょうね。静蘭は…その、以前、とあるところで、ちょっとした捕物があった際に…」
春麗が言いづらそうにモゴモゴと語尾を濁して眉間に皺を寄せたのを見て、鳳珠もーあの夏のことを指しているとわかりー仮面の下で渋い顔をした。
「紫州でも地震が頻発していますし…また何か起こるかもしれません」
「今回は羽羽殿に聞きに行かないのか?」
鳳珠の問いに少し間を置いてから、春麗は答えた。
「えぇ、多分、教えていただけないと思います。神域や縹家が絡む何かが起こっているかと…羽羽様はそれだけは教えてくださらないのです。秀麗とリオウ殿、藍楸瑛殿ともう一人が行かれているので、そちらに託すしかりませんね。どこか奥深くにいた珠翠が出てきたようですし、おそらく今の代替わりの際に大巫女になると思いますから、何かしらの助けはあると思います。ただ、それが何かまではわかりません…」
「紅州の方は旺季殿と…志美がなんとかするのに頼るしかないな。だが旺季殿がどう動くか…」
「百合叔母様の話だと、秀麗に仕事を託されたという燕青殿が向かっているようです。これは聞いたわけではないのですが、秀麗が調べていたのは、おそらく例の鉄と職人の件かと思います。燕青殿が立つ前に一度話せればよかったのですが、それができず申し訳ございません。燕青殿は旺季殿より先に紅州に入るでしょう」
「秀くんはどこで鉄のことに気がついたんでしょうね?」
「さぁ…わかりませんが…おそらく戦を懸念しているのはわたくしたちと変わらないと思います」
「いずれにしても、仮に蝗害を抑えられたとしても、楽観視はできないな」
「その前に蝗害ですね。そろそろ風向きが変わると思うので、劉州牧にはお願いを聞いてくださったお礼かたがた文を出しておきましたが、間に合わなかったかもしれません」
さらに重い空気になって、それぞれ異なる方向を見てため息をついた