蒼き迷宮−2
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「劉州牧、何をニヤニヤしながら読んでるんですか?先程渡された戸部尚書からの文でしょう?」
声をかけられた劉志美は、チラリと視線を上げてから答えた。
「やあね荀彧、ニヤニヤだなんて。微笑んでるって言ってちょうだい」
「その様子では悪いことの文ではなさそうですよね?直接届くなんて今までなかったでしょう?」
「まぁ、ね。ちょっと仲間にいいことがあったのよ」
(ふぅん、鳳珠のお嫁さんは黎深の姪、かぁ…噂の”戸部の秘蔵っ子”って言われてた状元の女人官吏よね?あの二人、相変わらず連んでたのね。それにしても、”あの”鳳珠が結婚できてよかったワ。顔に耐性があるってことだろうし)
「あなたと戸部尚書が仲間?まぁ細かいことはいいですけど…」
志美はそれには反応せずに、ペラりと用件のみーー遅ればせながらの婚姻報告と、悠舜のために妻である紅春麗の頼みを聞いてほしい、と書いてある文を見てから、中に入っていたもう一つの文を開く。
読み進めていくうちに、眉間に皺を寄せ始めた。
(全く、バカ黎深…!!)
椅子にどさっと寄りかかってため息をついてから、もう一度文を読み返す。
手元の煙管を苦々しく咥えた。
”お忙しいと存じますので、訪問していただくのはいつでも構いません。紅本邸ー紅九華にはわたくしから連絡を入れておきますので、何卒、叔父をー紅黎深をお願いします。今回の件は、黎深の兄であるわたくしの父でも、鳳珠様でも、そして悠舜様でも、その言葉は叔父には響かないのです…”
(どうしてこの子はアタシに頼んできたのかしら?そして、どんな子なのかしら?)
文には丁寧な自己紹介と、突然の文を詫び、そして黎深が茫然自失で機能しなくなったことと、どうしても黎深に会ってほしい、ということしか書いておらず、その本意は不明だ。
最も、書いてあること以上のことは春麗にはなかったのだが。
志美は仲間ー旧友の姪であり嫁である、まだ会ったことのない春麗がどんな人物か、何を考えて依頼してきたのかに思いを馳せる。
”おそらく、黎深が耳を傾けるのは、劉州牧しかいらっしゃらないと考え抜いた末でのお願いです。紅家のことに州牧を巻き込み申し訳ございませんが…州牧だからお願いするのではなく、紅黎深や黄鳳珠のお仲間である、劉志美様以外、あり得ないのです”
(ちょうどよく、仲間が紅州州牧だった、ということね…これが文仲でもこの子は頼んできたのかしら?)
鳳珠の文には”悠舜のために春麗から頼みがある”と書いてあり、春麗の文には”黎深を頼む”という内容が書いてある。
黎深が仕事放棄して悠舜にさんざん迷惑をかけた挙句、クビになった顛末は聞いているし、何を考えて黎深がそうしたか、想像はつくが…
(本当、バッカみたい…鳳珠も、お嫁サンもだろうけど、黎深のことはどうも憎めないのよネ…)
文をクルクルと畳んで、私用の文箱に(ほとんど入っていないが)、鳳珠の文と一緒にしまって、どこかに空いている時間があったかと少し考え込んだ。