蒼き迷宮−2
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本質、をどう説明しようかと少し迷ってから口を開く。
「えぇ、考え方の本質です。とはいえ、わたくしは旺長官のことをよく存じ上げませんので、父様の言葉を借りれば、そんな気がする程度、なのですが…そうですね、例えていわば、旺長官は嫌いなものを排除しているような感じでしょうか?蝗害対策のなさり方を伺って、そう思いました。あと、やろうと思えばなんでもお一人でできるし、決めることができる。対して主上は…一人では何もできない決められない。そして好きなもの、好きな人だけを周りに集めている。好きな人が好きと言ったり興味を持っている人に対しては、自分も興味を置いて手元に置く」
「ふむ…やけに実感がこもっているな」
「わたくしが官吏になったときに、王の補佐を一年間やりましたが…まさにその状態だったので」
「あぁ、あれか…除目の時に戸部、礼部、宋太傅が取り合いになって吏部まで参戦してきたあれな。そうか、周りが注目したから、王の補佐が回ってきた、ということか」
「はい。それが事実だと思います。反対に…臭いものにフタをする、じゃないですけど、嫌いなものは無かったことにする。それが主上の本質でしょう。ただしその好きな人だけを集めたその周りが”正しい人たち”であって、彼らに助けられれば、真っ直ぐに道を歩むことができるでしょうけれど、そうでない場合は…という感じでしょうか…今は鄭尚書令が導いていらっしゃいますね」
「正しい人たち、か…言い得て妙だな」
際どい会話をしている、と邵可は娘を見る。
だが鳳珠が旺季派とも思えない。
(こんなところに来て、こんなキワどい会話をして、何を考えている…?)
後で確認する必要があると、心の中が重くなった。
「紅邵可ー王を守れ。お前がさっき旺季を守りに飛んできたように、俺たちも坊ちゃん王を殺したいわけじゃない。お前の懸念通り、今旺季が死んだら取り返しがつかん。国中で戦になる。旺季を慕っているやつは国中に散らばっているし、各地で要職に就き始めている。洒落にならん。だが戦は本意ではない。譲らせる。それまで坊ちゃんを守っておけ」
言い切った。
(葵大夫よりさらに正直な方だ…人望があるのも頷ける)
邵可に言い聞かせるように見えたが、ふと春麗は自分に落としていった一言でもある、と思った。
最も、それによって揺らぐことはないが。
「俺はねェ、旺季の国が見たいとずっと思ってたよ。どんな国になるか、鮮やかに眼裏に浮かぶ。だがお前は、劉輝様の国が見たいと思ったことがあるか?ーー俺たちは待った。そうだろ?多くの時間を自分のために浪費して、あらゆる期待を反故にしたのはあのボーヤだ。坊ちゃんがそれを残らず清算して、旺季以上の国を示せる覚悟があるのか?言っておくが、今度藍州にトンズラしたみたいに、またボーヤが苦しくて逃げ出したら、ーー終わりだぜ」
邵可と春麗が何かいう前に陵王はふっと表情を和らげた
「…お前らが旺季を守りにきてくれたのは、心から感謝しているよ。お前らみたいのがそっちにいると、助かるぜ」
話は終わり、だった。
束の間の平穏な時に、終わりが来るー
孫陵王の姿が見えなくなると、春麗はぽつりと告げた。
「父様…お願いがあるの。剣の稽古を、つけてくれないかしら?」
邵可はしばらく逡巡したが、ややあって「いいだろう」と答えた。
断りたい気持ちは山々だったが、そう答えざるを得なかった。