黄金の約束−1
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絳攸と春麗は見つめ合うこと数拍。
そろそろ誰か声をかけようという空気になった時に、徐に絳攸がため息をついて話し出した。
「春麗に隠したところで無理だろうな…実は…この猛暑で、官吏たちもバタバタ倒れていっているんだ。人手が足りず過労で倒れてさらに人手が足りなくなる、という悪循環を起こす部署もあるんだが、中でも戸部…もともと少数精鋭なところに、この状態で一際厳しく危機的状況だ、と朝議で話がでたんだ」
「事情はわかりました。お手伝い先は戸部ですね。一つ条件を飲んでいただければ、わたくしもやります」
(またあの方のもとで働けるなら大歓迎ですわ)
ほんの少しだけ口の端に笑みを浮かべたのを、邵可がチラリと見ていた。
「条件?随分穏やかではないね?」
楸瑛が口を挟む。
「そんなに難しいことではありません。お会いしたい方がいるので、それを叶えてくだされば。王の補佐の絳攸兄様なら、簡単だと思いますわ」
「それで、誰にだ?」
「外朝に行ってからお話ししますわ」
お茶を一口飲んで、話を区切る。
「…で、格好はやはり?」
「ああ、侍童の格好をしてもらう。女は外朝に入れないからな。心配するな、秀麗。その体型なら絶対に気づかれない」
うわー・・・
邵可もふくめ、残りの全員が固まる。
「春麗は、ちょっと工夫がいるかもな」
追い討ちをかける絳攸。
「絳攸兄様、いくら女嫌いだからといって、言っていいことや言い方というものがあります。お気をつけくださいな。わたくしの格好は、ご心配なく。」
翌朝、絳攸がおいていった侍童服に着替える。
「姫さん、どこから見ても可愛らしい少年にしか見えないぜ」
燕青が間違った褒め方をしている。
「そ…そう?似合っちゃってるのもいいんだかなんだか…」
秀麗は苦笑いである。
「できたみたいね」
どこからどう見ても完璧な侍童姿の春麗が顔を出す。
全員、その姿を見て絶句である。
「春麗、すごいわね・・・!」
「本当だな、全く違う」
「・・・」
(春麗お嬢様、この格好はもしや、あの時の・・・)
静蘭の視線が鋭くなる。
だが、静蘭もこの場で聞き出すわけにもいかないと、敢えて何も言わなかった。
外朝についた秀麗、春麗、燕青は絳攸に迎えられた。
「春麗、お前…もしや!!」
絳攸は侍童姿の春麗を見て、いつになく動揺した。
春に府庫で見かけた侍童を思い出したからだ。
「絳攸兄様、その話はまた後で」
面倒なことはごめんとばかりに春麗が話を遮った。
絳攸はしばらく見つめていたが、秀麗のこともあったので意図を理解してそれ以上聞いてこなかった代わりに、役割変更を告げた。
「春麗、悪いが行き先が戸部から吏部に変更になった。吏部尚書の雑用係を頼む。先に戸部に送ってから吏部におくる」
「・・・わかりました。ところで!僕はこの姿の時は”天寿”です。くれぐれも間違えないように」
「大丈夫?春麗?一緒だったら心強いのに一人で?私に燕青がついてくれることになっちゃったら…」
心配そうに秀麗が覗き込む。
憧れの仕事の手伝いができるということで意気込んでいたが、やはり自分が一人だったら不安だと感じたのだろう。
「”天寿”だからね、秀。そして僕は大丈夫、心配しないで」
(間違いなく、ね)
その自信はどこからくるのやら、と絳攸は突っ込みたかったが、歩きながら話題を変えた。
「秀は戸部尚書の雑用係だ」
「そんな重要な仕事、私に!?」
「政に関わる重要なことではなく、書簡運びや片付けなので問題ない」
簡単に絳攸が説明する。
「戸部尚書ってどんなかたですか?」
「そうだな…簡潔に言えば、有能、変人、謎な人、だ」
(確かにそうね)
「有能さは誰もが認めるところだ。吏部の上司と並んで将来の宰相候補と言われている。就任するやいなや、少人数の戸部を指揮統率し、いい加減な前任者のおかげで穴の開きかけた国庫を見事になて直した」
それはすごい、と三人が目を丸くする。
「名前は奇人。黄家の人間だ。性別・男。年齢、顔、声共に不詳ーだ。」
「奇人て、ヘンな人っていう奇人?」
「そうだ、よくわかったな。直接会ったほいが早い。会えばわかる」
(びっくりするでしょうね)
春麗はクスリとほくそ笑んだ。
「ところで李侍郎さん、四半刻で戸部に着くって話だったけどそろそろ一刻になるぜ、まだつかねーの?」
燕青がようやく気がつく。
(わたくしが案内した方が早かった…バレるわけにいかないから口を出せないのが口惜しい!)
それからぐるぐる回って、ようやく戸部に着いた。
「頑張ってね、秀」
とりあえず、今日のところは室には入らずに、外で待つことにする。