蒼き迷宮−1
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(おかしい…黎深叔父様から何の音沙汰もない…)
朝から礼部にで書翰の確認を一気に終えてひと段落したところで、春麗はふと気がついて手を止めた。
深呼吸してから意識を紅州に飛ばすと、室の真ん中で呆然とした表情でーそれはおそらく春麗が一度も見たことのない黎深の表情でー微動だにせず座っているのが見えた。
(一体どういう…)
「紅侍郎、お顔の色が悪いですが」
礼部官が声をかけてきて、はっと思考の沼から這い上がる。
「あ、あぁ…ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたので。こちらの書翰を工部と吏部にお願いしてもいいですか?工部へは管尚書へ直接手渡して、「至急判断の上、回答を」と伝えてください。今は欧陽侍郎ではダメですから、必ず尚書に直接手渡しでお願いします。吏部は伝言はありません。楊侍郎へ渡すだけでいいです」
手元にあった書簡を渡して、微笑んでおく。
が、頭の中ではどうするべきか考えていた。
午になり、”玖琅に文で聞く”以外に結局いい案が浮かばなかった春麗は、その前にと後宮へ足を向けた。
邵可が百合のところに出入りしているはずなので、何かしら手がかりがあるかもしれない、と思ったまでだ。
「春麗、よく来たね」
百合が腕を広げて出迎えてくれる。
「おや春麗」と目当ての邵可の声がして、そちらへ目を向けた。
「父様、百合叔母様…時間がないので単刀直入に聞きますわ。黎深叔父様に、何かありました?連絡が全然ないんです」
と伝える。
百合は少し首を傾げて
「どうして?黎深から連絡がないのなんて、いつものことじゃない?」
と答えるが、邵可は少し困った顔をした。
「叔父様から連絡が来て然るべき内容を送っているのに、音沙汰がないのがおかしいと思ったんです」
と素直に答えた。
「玖琅叔父様に御文を出そうかと思ったのだけれど、一緒に紅州に帰っていた父様に聞いた方が早いと思って」
邵可は少し困った顔のまま目を逸らした。
(何か、あった…)
百合も春麗も気が付いたが、邵可が口を開くまで黙ってじっと様子を見ていた。
「紅州に…帰ったときに、”鳳麟”の正体がわかったんだ…」
「邵可様、それは?」
百合が緊張した声音で聞く。
藍家を、紅家を、そして大切な絳攸を嵌めた人。
「…悠舜殿だったよ……」
百合は息を呑む。
(やっぱり)
と思った春麗は表情を変えずに
「そのほかになにかありましたか?」
と畳み掛けるように尋ねた。
「…”鳳麟”が悠舜殿だった、ということがわかったと同時に、黎深は思いだしたんだ。戩華王と自分が、悠舜殿の…姫一族を滅ぼしたことをね。子供の悠舜殿は同じく子供の黎深に助けを求めたようだよ。だがどうでもいいというふうに助けなかったのは黎深だ」
邵可は話の重さの続きを言うために一度区切ってから、ふぅ、と息を吐いて続けた。
「そして、紅家が捨てた悠舜殿を誰が拾ったか…戩華王が滅ぼした貴族の生き残りを一人ずつ拾って育てた人がいる。それが、旺季殿だ。このことを思い出し、知ったことが…何事にも無関心だったはずの、黎深の世界が崩れたんだ。だから…多分、黎深は紅家で茫然自失のままじゃないかな」
「邵可様…」
「この件はね、黎深が自分で解決しないといけないんだよ。私でも、春麗でもダメだ。そして百合姫でもこのことは無理だ。悠舜殿の傍にずっといたのは、黎深だからね」
邵可は少し諦めた顔をして、一気に言い切った。
百合は「そんな…」と青い顔をして黙りこくった。