蒼き迷宮−1
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「どうした?構って欲しいのか?」
鳳珠は筆を置き、春麗の手に自分の手を重ねる。
湯上がりの甘い香りに誘われる気持ちはするが、おそらく春麗はそういうつもりで寄ってきたわけではないだろう。
ここのところ、邸ではいつも心配そうに見つめてくるいつもと同じ視線に、なんとなく言おうとしていたことを推察した。
そして春麗の口から出た言葉は、推察通りだった。
「…わたくしが…鳳珠様のお手伝いをできることがありますか?一生懸命お文を書かれているの、帰還命令に関することだけではないですよね?絳攸兄様が御史台に拘束された時と、気持ちは変わっていませんわ…」
春麗の手を離して、文をくるくると畳み、文箱に入れる。
長椅子の横を叩いて、ここへ、と促すと、後ろからちょこちょこ歩いてきて春麗が隣に座った。
「実家と黄家当主から頻繁に文が来ているのは見ての通りだ。帰還命令ももちろんあるが、それ以上に今は…」
わかっていることと思っていても、口に出すのはなかなか気が乗らなくて一度区切る。
「黄家の
「…戦商人…」
「あぁ、戦の匂いのする場所へ。それが本当の私の一族の姿だ。戦においては情報家にも早変わりする。今回は…異常に早い段階から、朝廷の誰かと接触していたみたいだ」
「朝廷の、誰か…鳳珠様ではなくて、ということですね」
春麗は何か引っかかった様子で首を傾げている。
「似たような話を思い出さないか?お前の同期の碧珀明が言っていたことだ」
「あぁ、確か…絳攸兄様が拘束された時に、”政治に疎い碧家がこんなに早く手を回してくるということは、どこかから何か情報が出ていたり、指示のようなものがあったのか”と言っていた話ですね。鳳珠様のお考えでは、碧家に入っている情報と、黄家に入っている情報が同じところから出ている、と…」
「おそらく、な」
鳳珠はため息をついた
「黄家は戦のある方に傾く。だが、今また戦が起こると直接大きな被害を受けるのは…貴族でも官吏でもなく民だ。だからそれを避けたいと思って説得しているのだが…」
(力が及ばずで、な…)
鳳珠は最後まで言わずに、下を向いた。