蒼き迷宮−1
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だいぶ夜が更けてから、春麗は邸に帰った。
「おかえりなさいませ、御館様はもうお食事も湯浴みも済まされて、お仕事室ですわ。先に湯浴みをしてくるように、とおっしゃってました」
瑞蘭がすぐに報告してきた。
「ありがとうございます。ではそのままお湯をいただいてもいいかしら?」
「お食事はいかがされます?まだですよね?」
「…あまり食欲がないから…」
瑞蘭の表情が険しくなったのを見て「りんごをお仕事室にひとつお願いしますわ」と伝えて、湯浴みに向かう。
少しずつ秋が深まってきて庭院の木も色づいている。
月明かりに照らされるそれをしばらく眺めてから春麗は仕事室に入った。
「おかえり」
「遅くなりましたわ」
鳳珠はまた文を書いているようだ。
邪魔しないようにそっと近くに座り、用意してもらったお茶を飲みながら、りんごを切る。
鳳珠をチラリと見ると、気にする様子もなく筆を走らせている。
春麗はうさぎに切ったりんごを手につまみ…鳳珠の口元にちょん、と当てた。
「ん?」
びっくりした表情で鳳珠がりんごを見る。
しばらくそのままにしていたが、鳳珠が動かないのでつまらなさそうに春麗は自分の唇にちょん、とうさぎの先端を当ててから、パクッと食べた。
「…」
鳳珠はその様子を黙って見ている。
春麗はもうひとつ手に取り、ちょんちょん、と鳳珠の口元に二回うさぎりんごをあてた。
(食べろ、ということか?)
今度は鳳珠が口を開けると、うさぎが入ってきた。
半分食べて咀嚼していると、そのまま春麗が待っているので、結局一つ食べる。
二度ほど繰り返すと、残ったりんごと乗せていた一式を持って室を出て、程なく戻ってきた。
しばらく春麗は鳳珠を見つめる。
かなり頻繁にやり取りされている黄家との文。
今日も長いものを書いているようだ。
おそらくほぼ終わりに差し掛かったであろうところで立ち上がり、鳳珠の後ろからそっと腕を回して抱きついた。