黄昏の宮ー2
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王が口を開いてから三拍ほどほどの重々しい沈黙の後。
「ーーよろしい。御命令とあらば、ただちに致しましょう。ですが一つだけ。兵馬の権を借り受けたい。それが条件です。いかがか」
宰相位に比す門下省長官の旺季が。兵馬の権を仮受けたいというのならば、それはすなわち全軍を動かせる総帥権を渡せ、ということだった。
ほぼ王に等しい力を、いやそれ以上の力を持つことになる。
飛翔が口を挟んだ
「…ちょっと待て。一軍ならともかく、全軍動かせる権限を渡せってのは、ねぇだろ。兵部尚書・孫陵王も顎で使えるってことじゃねーか。いくらなんでも大権すぎる」
「門下省侍中である私には、それを求める権利がある。それに一気に全軍動かすつもりもない。必要に応じていちいち貴陽へ伺いを立てる時間が惜しいからだ。人間とちがって飛蝗は返信の間、律儀に待ってはくれぬからな」
(余計なことを考えない、と思っていたけれど、これは…)
想像をしてから、瞳を閉じて旺季の先を見る。
(やはり…)
”誰が”、”何のために”、行っていたか、予想通りの結果が見えた。
結末まで見ずに、意識を戻す。
鳳珠が言葉を選びながら慎重に口を開いた
「…中央の軍を、戦以外に地方に動かすのは、あまり例がないかと。しかも飛蝗退治に出すとは…軍が必要なら、各州・各郡の軍を借り受けるのが普通だと思いますが」
春麗は言葉を聞いて、鳳珠の発言の意図ー気付いたーことを理解する。
「飛蝗退治に軍を出してはいけないという法律が、あったかね?来尚書」
「ありませんね。私もそのぐらいしても構わないと思うね。蝗害は最悪の天災だ…もちろん。軍を引っ張っていくならたっぷり糧秣を持っていっていただきたいが。ただでさえ足りないはずの被災地域の食糧を。中央軍が横から飛蝗の代わりに食い潰す…という馬鹿な事態だけは避けていただければ、私は何も文句はないな」
「当然だ。軍を借り受けるのは、最速で大量の糧秣を各地に一気に届けるためもある。幸い、先の紅家の経済封鎖の折に蓄えさせた分が使われていないままかなり残っている。それを使わせてもらう。ーー陛下、尚書令、いかがですかな」
「…わかった。旺季殿に…兵馬の権を預けよう」
悠舜が微笑んだ。